第九話 今回は残念ながら男しか出てきません
晴天の下を歩くのは何て気持ちがいいのだろう。
そんなことを思いながら城下の街を歩いている。
これは華やかな王女達の陰に隠れて忘れられがちな第一王子としての顔を売るため――なんかではない。
人々の意見を聞いてそれを国政に活かそうとしている――訳でも、残念ながらない。それをやることはあるんだけどね。今回は違う。
今日は城下に遊びに来ただけだ。格好も王族のそれから貴族のものに変え、お忍びモードです。変装魔法という便利なものがあるので、髪の色も変えている(黒→白)。
念の為に言っておくが、これは授業をサボって出てきたわけでもない(そんなことをしたら教師失格だ。っていうか人間失格だ)。彩希の授業が終わり、次の――悠可への授業までに時間があるので、こうして街に繰り出しているわけだ。
今この瞬間だけは俺は教師でも忘れられがちな王子でもない。普通の貴族だ。
って訳で……。
市が開かれている通りをそろそろと進む――途中で半ば無理矢理串が外された焼き鳥なんかを口の中にねじ込まれたりもしたが(美味しかった。お金もちゃんと払った)――目的の店へと辿り着く。迷わず入店した。
「いらっしゃ……なんだ坊ちゃんか」
「何で露骨にがっかりするんですか」
「お前の依頼めんどくさいんだって。この前も使いどころがよくわからない術式を刻んだ金属で魔剣を作らされたし……」
俺は無言のまま、店主がいるカウンターに金属を置いた。
「……プレゼント?」
「んな訳ないでしょ」
「まさかまた……」
「そのまさか。もう一振り打ってください」
「……これで何本目だよ。一、二……八本くらいか?」
「そのくらいですね」
「どこで何に使うんだよ」
「色々ですよ色々」
ふむぅ……と唸る店主。
えー。既にお気づきの事とは思うが、ここは鍛冶屋である。そして俺の目の前に立ち、無精髭を擦っているおっさ……男性こそが、この店の店主で――恐らくこの国の中でも一、二を争う腕を持つ鍛冶師である。
名を
……剣の銘みたいな名前だ。
七年前にこの国に引っ越してきて、以来ここで鍛冶屋を営んでいるということだが、結構繁盛しているようだ。彼が伝えたニホン刀も高い評価を得てきている。
「……わかった。打ってやる。構造はどうする?」
「おまかせで」
「……そんなんでいいのか坊ちゃん。こんな複雑な術式が刻まれた金属なんてそうそう手に入るもんでも……」
いや、こいつはもう八本分持ってきてるか、と呟いた店主は俺に何か言いたげな顔でこちらを見た。
何だか知らんが笑みを返しておいた。
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