第八話 君に捧げる剣

「……そう。そんな感じだ。後は魔力の流し方をちょっと工夫すれば魔剣の使い方は完璧」


「魔力の流し方?」


「ああ。柄の方からとにかく魔力を流し込めばいい――ってもんじゃないんだよな。


「刀身の構造を完璧に把握して、そこに組み込まれている魔法陣の構成を視る。どの部分にも過不足なく魔力が行き渡るようにできれば最高だ……けど、今はそんなに神経質にならなくてもいい」


「分かりました」


 五本の魔剣の中で彩希が最終的に選んだのは火魔法が刻まれた――つまり、俺がさっき振ったニホン刀。何となく手に馴染んだんだとか。


 武器は自分の思い通りに操れるものを選ぶべきだ。自分の想像に――理想についてこられるような力を持つ武器が望ましい。その意味で、『何となく』手に馴染むという理由はかなり大きな価値を持つ。


 彩希は特に火魔法が得意だし。


 ……といったところで、八時半に授業を開始してから二時間くらい経った。


 そろそろ授業を終えようか。


「……んじゃ、その剣はあげるから、練習しててくれ」


「……あげる?」


「ああ、あげる。貸してあげるじゃなくて、あげる」


 彩希は呆然としてこちらを見ているが、何かおかしかっただろうか。確かに宝剣と呼ばれている武器ではあるが――それは火魔法が得意な者が持つべきであり、手に入れた時から彩希にあげようかと考えていたものだ。手に馴染むと言っていたし、彩希なら大切に使ってくれるだろうし……。


「いや、ずっと前からその剣は彩希にあげようかと思ってたんだよ。俺はそんなに火魔法が得意でもないし」


「兄様が言う得意でもないって……」


「あーあー。聞こえない。じゃあ、今日の授業は終わりな。王宮の中で振って城を燃やすんじゃないぞー」


「そんなことはしませんけど……わかりました。頂戴します」


「ん。それがいいよ」


 ○

 彩希は中庭でもう少し練習していくと言ったので、一人で王宮へと戻る。


 廊下を歩きながら、ふと、剣の銘を教えていないことに気が付いた。


 ……まあ、次に会ったときに教えればいいか。


 祝宴の夜に灯される歓喜の炎。その勝利の象徴を宿した剣。


宿炎刀しゅくえんとう』。


 ……ちなみに名づけの親は俺じゃないぞ。これを打ったロマンチストな爺だ。

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