第七話 何でこんな位置関係にしたんだろうね
お察しの通り夜更かししてしまい――しかし寝坊だけは免れた今朝、俺は壮絶な眠気との死闘に神経をすり減らしていた。完全な自業自得だけど。
「今日は剣術を……教え……
「ふよ、じゃないですよ兄様」
「……
「……また読書のやめ時が分からなくなったんですか?」
「……え、なんでわかんの」
「兄様が眠そうにしてる時は毎回そうだからです」
「……そ、そう?」
「……何でちょっと嬉しそうなんですか」
嬉しそうにしている自覚はないんだけどなー。
「……よし。はい、じゃあ今日は剣術を教えます」
「……はい」
「手始めに、どうして魔法があるのに剣を使わないといけないのかについて訊こうか。知ってる?」
「魔法があるからこそ、剣を使う……のでは」
「そうそう。世の中にはこういう剣があってね」
俺はずっと空中に浮かべていた五振りの剣のうち一本を手元に引き寄せる。鞘から刀身を抜くと、太陽の光を受けて、剣は濡れたような光を放った。
「ちょっと離れていてくれ」
そう言ってから、俺は剣に魔力を流し込む。刀身に刻まれた魔法陣に魔力が流れ出し、魔力は現象へと変換される。俺は剣を横に薙いだ。
炎が。意思を持つように雄々しく叫ぶ炎が生じた。うねりを伴うそれは、空気を裂きながら前方へと飛ぶ。
相変わらずの超威力だなと感心した。宝剣と呼ばれるだけある。
……ちなみに言い忘れていたが、今いるここは中庭です。だから王宮が燃える心配はない。
「っと、そろそろ消そうか」
俺は左手を――剣を持っていないほうの手を軽く振る。それだけで、あれだけ猛々しく燃えていた炎が消える。
「……何ですか今の」
「えー。世の中にはこういう魔剣がだな……」
「いえ、どうやって消したんですか?」
「……魔力を全部回収した」
「……あんな遠くまで魔力操作が出来るんですか?」
「ま、まあね。彩希も多分出来るようになるよ」
「……八十メートルくらいありますよね、今私十メートルくらいしか出来ないんですけど……」
「い、いずれないずれ。ちゃんとコツを教えるから」
「……まあ、納得しておいてあげます」
「ありがと。……でだな」
俺は空中に浮かべていた残りの剣を地上付近にまで下ろす。
「彩希にはこの中から自分に合う剣を選んでもらいたいんだ……まあ、全部駄目だったらまだ持ってくるけど」
「これ全部魔剣なんですか……?」
「ああ」
「魔剣ってそんなにぽんぽん手に入るものでしたっけ……」
彩希が何やら呟いているが、ここは気にしない方向で。
「じゃあ、とりあえず振ってみ?」
「……あの、これ、握り方が分からないんですけど……」
「ん?……ああ、それか」
その剣はちょっと形状が特殊なんだよな。
「確か……ニホン刀って言ったかな。どこか遠くの国から伝わった形状らしい」
俺はそう言いながら、彩希の後ろ側へと移動する。そして腕を彩希の体の前に回して、剣を握った――んだけど体勢がまずいなこれ。甘い――というか何と言うか、良い匂いがするし……抱きしめてるみたいになってるし。離れたほうがいいよな流石に。
「ああ、ごめ……」
「兄様、それで、握り方はどうすればいいのですか?」
「……このままでいいのか?」
「何がですか?」
「…………えっと、握り方と――構え方もやるか。まずは右手を上にして両手で持って……ああ、左手はもうちょっと下。その辺。指にかける力は親指が――」
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