読まれる必要のない幕間

「……王子、よく来てくれた」


「緊急事態ですか」


「いや、まだ事態が起こるには至っていない」


「危険な兆候が見えると」


「ああ――この国が抱える『力の記憶』保有者の話なんだがな」


「…………」


「『最怪の魔術師』から――微量だが、確かに魔力の放出が感知された、ということだ」


「……どこからの情報ですか」


「隣の『聖命国』だ」


「……勇者が感知したんですかね」


「完全な嘘でない限りは、そうなるだろうな」


「……本当だと思われますか。あの結界を一部でも破ったと?」


「……そんなはずはない、と言いたいが」


「…………」


「時期は合うんだよな……」


「……何の時期ですか」


「いや、独り言だよ。気にしないでくれ……」


「……わかりました」


「……由理、君の妹達の教育はどうなっている?」


「彼女たちが力を着実につけている、という意味では成功かな」


「どんな意味では失敗だ?」


「俺が教えることが殆どない」


「はは。でも、お前のおかげで力をつけていることは確かだろうがな」


「……え?」


「これも気にすんな。じゃあ、今日も授業頑張ってくれ」


「……分かったよ――」


 父さん、と呟いて、夏城由理は部屋から出て行った。


「……そろそろ終わりにしたいんだがな――」


 国王――夏城慶我は、色濃い憂いを瞳に浮かべ、それを押し隠すように目を閉じた。


『力の記憶』。古の――現在からみると、殆ど神話と変わらぬ時代を生きた或る魔術師が、力を等分し生まれた特異なモノ。


 それを継承する者を、保有者と呼ぶ。


 ―――力に与えられた名が、五つ。


『最果ノ魔術師』。


『最明ノ魔術師』。


『最古ノ魔術師』。


『最巧ノ魔術師』。


 そしてこの国に眠る―――――


『最怪ノ魔術師』。

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