第四話 メイドさんと紅茶はいかが

 二十時過ぎまで時葉への授業を行って、今日の仕事は終了(ちなみにテストでは時葉にも満点を取られた)。


 王宮の六階、バルコニーへと移動し、そこに備え付けてあるテーブルに着く。ここに来ると、一日が終わったという感覚が湧いてくる。


 王宮は――恐らく防衛の観点からの理由なんだろうけど――小高い丘の上に作られていて、その六階ともなると国が一望できる高さを持つ。


 既に世界は夜に包まれている。無数の星が、誰かを幻想的な夢の世界に導いている。いつ見ても綺麗で、いつまで見ても飽きることはないように思えた。


「……由理様」


 掛けられた声に振り返ると、そこにはメイド服を身に纏う少女の姿がある。水色の髪に優しげな瞳が印象的な――王城に仕えるメイドさん、榎嶋佳那。


 俺と同い年ということもあり、仲良くさせてもらっている。最近ではここで一緒にお茶を飲むことが習慣になってきた。


「紅茶をお持ちいたしました」


「いつもありがとう、佳那」


「いえいえ」


「今日もお茶に付き合ってくれない?」


「喜んで」


 座ってよ、と言うと彼女は一礼してから席に着いた。俺は何も言わずとも座ってくれていいと言っているのだが、どうもメイドとしての矜持だか何だかで――こんな感じに、俺が許可するまでは座ってくれない。


 とか思っていると、佳那はにっこりと微笑んで、


「時葉様からお聞きしたのですが……」


 と言った。

 ――ま、待て待て。嫌な予感しかしないんだが。


「今日は図書館で研究に没頭されていたとか……」


「……もしかして、時葉怒ってた?」


「……そんなに気にされていないと思いますが」


、ってことは」


 にこり。


「……明日あたり謝りに行った方が良さそうだな」


「それが良いと思いますよ」


 授業の時は全然そんなそぶり見せないのにな……。


「……今日も思ったんだけどさ、俺が彼女たちに勉強を教える意味ってあるのかな」


「……どういう?」


「いや、なんか教えなくても何でも出来そうな気がするんだけど……」


 テストの結果とか見ててもさ、と付け加える。


「由理様がいるからこそ、だと思いますけどね」


「……それ、父さんにも同じようなこと言われたんだけど、どういうこと?」


「由理様に褒めてもらいたくて頑張ってるんでしょう、ってことですよ」


「……からかわないでくれよ……」


「からかってなんかいませんよ」


 彼女はころころと笑ってから、指を一本ずつ立てて。


「最年少で王国の剣術大会に優勝した天才剣士、『力の記憶』保持者にも匹敵する魔術技能を備える天才魔術師、古代魔法の研究の第一人者………」


「……誰の事だ?」


「この国の第一王子の話ですよ」


 ………………はて、名前が思い浮かばないな。誰だったっけ。

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