第五話 もう一仕事あったようです

 佳那とのティーパーティー(と言って良いのかよくわからないが)を終えて、自室へと向かう。

 王子という立場を考慮してなのかわからないけれど、俺の部屋は最高階――七階にある。よって、階段を一階分だけ上って廊下を進む。


 仰々しいというか、装飾過剰気味な部屋の扉を見て――いつものように――ちょっと目がくらくらするのを感じながら、入室。流れるように本棚の前に移動し、楽しみにしていた新刊の小説を一冊抜き取って、ベッドの横のテーブルに置いた。


 教師としての正装である(らしい)ローブを脱いで、ほっと一息ついてからベッドに腰かけ、小説を手に取り、表紙をめくった。


 こんこん。


 その瞬間にドアがノックされる音が聞こえる。


 ……これは俺が小説の世界と現実を隔てるドアをノックする音ですか?……そんな訳はなく、俺はいつものように「入ってきていいぞ」と返事をした。この時間に俺の部屋にやってくる人物は一人しかいない。


 かたりと音がして、一人の少女が姿を見せた。


 第二王女――つまりこの子も俺の妹に当たるわけだが――夏城悠可。


「寝られないか?」


「……はい」


「そっか……じゃあ、部屋に行くよ」


「はい……」


 悠可は恥ずかしげな顔をしながらも、俺の返事を聞いて安堵を浮かべた。


 悠可は今十四歳で、この歳で一人じゃ眠れないというのは問題があるような――と思う人もいるかもしれない。しかし入眠を妨げるのは暗闇の恐怖などではなく、もっと現実的で肉体的な問題だ。


 俺が言うのは少し気が引けるのだが――夏城家に生まれた子には並々ならぬ魔法の才が備わる。それは膨大な魔力量で、得意な魔法属性の多さで、魔力を感知できる範囲の広さで――いろいろな形で現れる。


 だが才能と呼ばれるものは結局、幼い頃から見られる優れた能力につけられた名だ。つまり、彼女達には極めて幼い時から――もっと言えば、生まれた時から巨大な能力が宿っていることになる。


 それは喜ぶべきことじゃないのか?


 答えは部分的にYES――良い面ばかりとは行かないのが、この世の常である。今回の問題はその、悪い面が出てきた形になる。


 魔法を制御するための器は――才能の有無に関係なく――十八歳くらいで完成すると言われている。幼い頃から優れた魔法の能力を持っているのに、それを制御できるようになるのは十八歳ごろ……。


 つまりそれまでは強大な能力が放任されているということだ。監視役不在でやりたい放題なわけだ。


「……今日はどんな感じだ?」


「魔力が昂ってる感じで……全然落ち着かなくて」


「そっか……」


 ――じゃあ今日は魔力を吸う感じね。了解了解……。

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