最後はみんなで大泣きした(下)


 ~~~~~~~~~~~~~


 これで私の復讐は終わった。


 ダンジョンを戻る道中、

 六人の死体はすべて、アイテムボックスに回収した。


 突然一人残らず消えた『金色こんじき六翼ろくよく』について、

 冒険者ギルドがどう対応したのかは分からない。


 私は、その日のうちに街を出たのだから・・・。



 ――家に戻ると、父と母が待っていた。


 話は客間でする事になった。


 部屋には私と、向かいに座る両親、

 そして、だけ・・・。


 一族の者は誰もいない。


「問題なく終わったようだな・・・」

 開口一番、父の言った言葉がそれだった。


「はい・・・」

 私は静かに答えた・・・。



 ~~~~~~~~~~~~~


 あの日、ダンジョンの下層で、

 兄ニコルの亡骸を守っていた幼竜から、

 その最期を聞かされた時・・・、


 私は、『金色の六翼』への復讐を決意した。


 だが、それは私の個人的なわがままだ。


 父や母はもちろん、

 一族の者に迷惑はかけられない。


 兄の亡骸をアイテムボックスに納め、

 私は幼竜を腕に抱いて、一旦家に戻った。


 父と母に兄の亡骸を見せ、

 幼竜と共に兄の死を語った。


 そして私は、『金色の六翼』への復讐の意志を伝え、

 その実行の前に私を勘当するように言った。


 ――そうすれば、一族に飛び火する事はないだろうと・・・。


 私のほうも、

 ただただ、能力の優劣で人を判断する・・・、

 そんな一族に対して、何の未練もなかった。



 ――父は了承しなかった。


「金はいくらでも用意してやるから、

 一族の名が出ない方法で復讐しろ」

 と言って・・・。


 不本意だったが、

 冷静に考えると確かに、

 五人もの冒険者を消すには、それなりの手段が必要だ。


 そのためにはやはり、金がいる・・・。


 私は、父の条件を受け入れた。


 だが、私の考える復讐計画は、

 なかなか父に認められなかった。


「方法がずさんだ」、


「それでは足がつく」、


「返り討ちに遭うのがオチだ」、


 そう却下され続けた。


 まさか、私に復讐をやめさせようというわけでは・・・、

 と何度も疑った・・・。



 ――ようやく父に認められる計画が出来たのは、

 ひと月後だった。



 ――私は街に戻り、計画の準備に取り掛かり始めた。


 必要な金は、すべて父が出してくれた。


 街の領主を介して、

『金色の六翼』への依頼・・・。


 それも父がやってくれた。


(らしくない・・・)

 私はそう思った・・・。


 だが、そのおかげで私は、

 こうして兄ニコルの無念を晴らす事ができた。


 その時、私の中で一つの疑問が浮かんだ・・・。



 ~~~~~~~~~~~~~


「お父さん、一つ聞きたい事があります」

 私は、対面に座る父に言った。


 父は表情一つ変えず、

「何だ?」

 と促した。


「あのミノタウロスキング・・・、

 あれは、ですか?」


 そう、は明らかにおかしかった。


 あれだけの巨体を誇るミノタウロスの王・・・。


 その接近に誰一人気づかなかった事・・・。


 そして、ウーゴをあれほど無慈悲に殺しておきながら、

 私と、縛られているライラには見向きもせずに消えていった事・・・。


 あのミノタウロスがもし、誰かが従属化テイムしたものだとしたら・・・。


「あの怪物に、あれほど冷静で的確な行動をさせられる従魔士テイマーを、

 私は他に知りません・・・」

 私がそこまで言うと、

 父は目をそらさずに答えた。


「そうだ。

 あれは私がやった」


「もしかして、ずっと見張っていたんですか?

 ダンジョンの中でもずっと・・・」


「ああ」


「・・・」

 私は唖然とした。


 だが、同時に腑に落ちる事もあった。


 考えてみれば、

 あの復讐は思い通りに進みすぎていた。


 私がある程度、従属化テイムの力で抑えていたとはいえ、

 ダンジョン内で他の魔物にまったく出くわさなかったなんて・・・。


「結局、私はあなたの手のひらで踊らされていたわけですか・・・」


「シオン!」


 私の言葉をとがめたのは父ではなく、

 その隣に座っていた母だった。


「お前の失敗は、一族の名に泥を塗る事になる。

 監視は当然の事だ」

 父は、冷静にそう言った。


「・・・」


「ピィ・・・」


 何も言えない私の手を幼竜が、

 慰めるようになめてきた。


「なら・・・」

 私は口を開いた。


「それなら何故、

 あなたはウーゴを殺したんですか?

 あの時点で、私にミスはなかったのに・・・」


「あの男は・・・、あの中で一番の実力者だった。

 お前が返り討ちになる前に対処したまでだ」


 そんな説明では、

 私は納得できなかった。


「ウーゴは完全に無防備だったんですよ?

 私に背を向けて、ライラしか眼中になかった。

 あの状況で失敗などするはずがないでしょう!?」

 声を荒げて、父を問い詰めた。


 父の目が、怒ったように鋭くなる。


 だが、私は目をそらさない。


 そのまま、私たち父子はにらみ合った。



 ――が、やがて父は諦めたように言った。


「あの男なのだろう?

 ニコルにとどめを刺したのは・・・」


「え・・・?」

 私は一瞬、聞き間違えかと思った。


 今、父は何と言った?


 つまり、

 父がウーゴを殺したのは、

 彼がニコルの命を奪ったから・・・?


「どうして・・・?

 だって、あなたは・・・、

 他の連中と同じようにニコルを・・・、兄さんを冷遇して・・・。

 兄さんが家を出ていった時も・・・、何も言わず・・・。

 兄さんが死んだ時も・・・、家を動こうとしなかったのに・・・」

 私は混乱した。


 父は静かに口を開いた。


「我々は代々、優秀な従魔士テイマーの一族として、貴族に期待をかけられ続けてきた。

 優秀な者は、そこから一族の代表として貴族の前にも立つ事になる」


「・・・」

 私は黙って、父の話を聞く。


「そんな中で、我が子可愛さに才能のない者を前に出したら、

 貴族の我々を見る目はどうなるか・・・。

 才能のない者も優秀な者と同等に扱う・・・、

 それが許されるほど、我々は自由ではないのだ」


「・・・」


「たとえ当主である私でも、

 いや・・・それだからこそ、才能の感じられなかったニコルを、

 お前や優秀な親族より可愛がってはいけなかった。

 一族全体のためにも、私にはニコルを冷遇する義務があった。

 だが、それでも・・・」


 歯を食いしばるように父は言った。


「駄目だな・・・。

 あいつは・・・、私の息子なんだ・・・」


「父さん・・・」

 私は、初めて父の本音を聞いた気がした。


 いつの間にか、

 私は涙を流していた。


 母はもっと前から・・・。


 そして父からも・・・、

 やがて絞り出すような嗚咽が聴こえてきた・・・。


「ピィ・・・」

 幼竜も悲し気に声を鳴らした・・・。



『最後は皆で大泣きした』。


 ニコルを・・・、

 私たちの大切な家族を想って・・・。



【THE END】




 _______________________


《あとがき》


 これで完結です!


 いや~、何とか後付けでつじつまを合わせ・・・、

 いえいえ、伏線を回収し終える事ができました!


 本当は最終話は、

 分割せずに一話にまとめたかったのですが、

 そうなるとかなりの文量になってしまうので、

 仕方なく分けて掲載・・・。


 せっかくのオチのインパクトが薄れてしまったかも・・・。


 ま、今さら言っても仕方ありません。


 何はともあれ、

 最後までお付き合いくださった皆様に、

 この場を借りてお礼を申し上げます!


 それでは、また次の作品で!


 あ、できれば最後の最後に、

 画面をスクロールして、

『応援』や『スター』、

 できればレビューもよろしくお願いします!!


 我妻わがつまクリス




 ~~~~~~~~~~~~~~~~


 作者:我妻わがつまクリス


 作品名:『そしてパーティーは全滅した』 


 

 ――読了。




























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