読了後の『君』の夜3


 🏠 📱 😱


「そういう……事か」

 自宅の布団の中で、

 スマホで作品を読み終えた『君』は、

 途中で気づいた仕掛けについて、

 改めてつぶやいた。


 熱はかなり上がっている……。


 なるほど……、

 ギリギリまで文章でははっきりと明示していなかったが、

 作中に登場人物はもう一人いた……と。


 そして、三人称視点と思って読んでいた文章が、

 実はその人物の視点での物語だったと……。


 所々、誰のものか分からないセリフや行動があったが、

 それはすべて、その人物のものだったのか……。


 真相が明かされるまで感じていた文体の違和感は、

 それが原因だったわけか……。


 熱と長時間の読書で、

 もはや限界に近い『君』の頭は、

 それでも考える事をやめない。


 スマホでの読書による弊害か……。


(しかし、これは悪手だな……)

『君』は思った。


 おそらく、

 このオチに気づいた読者は一人もいないだろう……。


 という事は、

 読者はそれが明かされるまで、

 一人称視点で描かれた文章を三人称の文章として読み続けなければならないのだ。


 短編ならともかく、これは本にしたら数百ページにもなる長編だ。


 読者の大半は、この『読みづらい文章』にうんざりして、

 途中で離脱してしまうだろう……。


 自分も何度、

 文体が気になってそうしようとした事か……。


 オチのために読者を減らすなんて、

 商業出版なら絶対描けない作品だ……。


(だが……)

 君はそこで思い直した。


 見方を変えれば、

 自分は書店では絶対手に入らない、斬新な作品を読んだ事になるな、うん。


 この読書で自分は、

 今まで持っていなかった全く新しい発想を取り込んだ事になるのだ、うんうん。


 自分は実に有意義な時間を過ごしたわけだ、うんうんうんうん……。


 ――などと考えながら、

『君』は必死で、自己の行動を意味のあるものにしようとする。


 熱が続いて、安静にしているべき状況で、

 長時間スマホをいじって素人作品を読んでいたという行動を……。


 その行動により、

『君』の頭は休まらず、翌日熱が下がった時も、

 その重い頭で労働に向かわなければならないとしても……。


 それでも『君』は、再び体調を崩した時、

 また同じ過ちを繰り返すのだ……。


 そう、

『君』はまだ……、


 この沼から抜け出せない……。 




【空蝉の異世界サスペンス編 完】 








 ________________


 そして『君』は抜け出せない。


 最後まで読み切った作品には、

 応援ボタンとスターを押して作品を評価するものだ、という自分の中にあるルールからも。


 真面目で心優しい『君』は、作者のためにもそのルールから抜け出せない……。



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