最後はみんなで大泣きした(中6)
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ミノタウロス
予想外の事態が起きはしたものの、
当初の予定通り、最後に残ったのはライラだった。
実は私はこの時、
ライラを殺すかどうか迷っていたのだ。
ダンジョンのここまでの道中、
『
唯一彼女だけが、私の兄ニコルを殺したことを後悔しているように見えたからだ。
ドワーフの人形を見て、
一番ニコルの影におびえていたのも、
彼に対する罪悪感の裏返しなのではないか・・・。
それに、先ほどウーゴが罵倒していた通り、
ライラが元々、ニコルの恋人だったとしたら・・・。
そしてもし、彼女が今もまだ少しでも、
ニコルの事を想っているのだとしたら・・・。
場合によっては、
このライラだけは殺さず、固く口止めをして見逃してやろうか、
などと考えていた。
だからこそ私は、
彼女の前でも構わずウーゴを殺そう、
と思ったのだ。
――だが、ウーゴの死体を前に呆然としているライラに、
私が自分が持っているカンテラの灯りを近づけると、
突然彼女は、我に返ったように再びおびえだした。
「ノックに殺される・・・!
逃げないと・・・!」
そう言ってライラは、
我々の位置が分からないよう、私にも灯りをしぼるように指示してきた。
そして、全力でその場から離れた。
必死の形相で逃走する彼女の姿は、
ただ恐怖におびえていた。
ダンジョンの暗闇の中を、
死ぬ気で走り続けるライラ。
だが、やがて限界が来て、
ライラはうつ伏せに転倒した。
その時、彼女が持っていたカンテラが砕け、
残る灯りは、私の持っているカンテラだけになった。
辺りを包む暗闇に、
ライラの恐怖はさらに膨れ上がった。
「『一人のドワーフのたいまつが消えた
辺りは真っ暗になりそして』・・・そして・・・」
・・・本当は、私のアイテムボックスの中に、
カンテラも火種も予備のものがあったのだが・・・。
――やがて、限界が来たのか、
ライラは告白し始めた。
――彼女たち『金色の六翼』の罪を、
赤の他人である私を相手に・・・。
「わたしはニコルを評価していた。
彼が守ってくれたアイテムのおかげで、
何度皆の命が救われた事か・・・」
そう話していた時のライラの顔は、
間違いなく本心を語っているように見えた。
だが今思い返せば、あれはただ、
そんな風にニコルを語る自分に酔っていただけなのかも知れない・・・。
「そんなニコルを私たちは殺してしまった・・・」
とうとうライラは、それを口にした。
ダンジョンでドラゴンに遭遇した事・・・。。
そのドラゴンをニコルが
そして・・・、そのドラゴンを刈るために、
止めようとするニコルを殺した事・・・。
『ニコルはドラゴンに私たちを攻撃させようとした。
だから私は、仕方なく彼を刺した』・・・、
そうライラが言った瞬間、
私は思わず
「違う!」
と、叫びそうになってしまった。
ニコルはただ、ドラゴンに逃げるよう指示しようとしただけだ・・・。
――そう、あの幼い竜から聞いたのだ。
・・・だが、もしかしたらライラには、
そうは見えなかったのかもしれない・・・。
聴きながら私は、
彼女への憎しみが薄れていくのを感じた・・・。
――だが、
告白が終わり、我に返って今の状況に引き戻されると、
ライラは再び恐怖の顔になった。
「ノックは生きていた・・・。
そして、彼は・・・ニコルの弟だった・・・!」
闇の中から次々に皆を殺して・・・」
そう言って、周囲を見回して震えだした。
「それは・・・」
違う、と私が言おうとしたその時、
ライラは立ち上がると、
いもしないノックに向かって、
大声で命乞いを始めた。
「わたしはただ、ニコルを止めたかっただけなのよ!!
だって、ドラゴンにわたし達を攻撃させようとするんだもの・・・!
彼を刺した傷だって、ほんの軽いものだった・・・」
(何を言っているんだ、こいつは・・・)
私は唖然とした。
あの時私が見た、兄の亡骸につけられた背中の傷は、
明らかに命にかかわるほど深いものだった。
明らかに殺意を持ってつけられたものだった。
(それをこいつは・・・)
私の中に、消えかけていた憎しみがよみがえってきた・・・!
――ライラはなおもわめき続けた。
「ノック、分かったでしょう!?
わたしは、ニコルを殺したりしていない!
殺したのはウーゴ達なのよ!!」
ライラはなおもわめき続けた。
「お願い・・・助けて・・・。
あなたが、ウーゴ達を殺した事は、絶対に誰にも言わないから!
ううん、それだけじゃない!
戻ったら、わたしは今度こそ、ニコルの死の真相を告白する・・・。
あなたのお兄さんを殺したのはウーゴ達だって、ギルドで証言するから・・・!」
ライラはなおもわめき続けた。
「お兄さんの名誉のためにも、わたしの証言は必要なはずよ!!
ここでわたしを殺すのは、あなたにとって損でしかないのよ!?」
ライラはなおもわめき続け
「黙れ」
私は思わず言った。
もはやライラを殺すことに、何の躊躇もなかった。
――それも、もっとも恐ろしく残酷なやり方で・・・。
私はライラに向かって、
最後の人形を放った。
今までの傷に加え、
あの時のニコルと同じ、
背中に傷のついたドワーフを見て・・・、
ライラは信じられないといったように、
「そんな・・・、
まさか、あなたが・・・」
そう、私を見て言った。
私は、ライラにカンテラを投げつけた。
・・・ライラのような
基本どこかの神官だ。
その日課として、彼女は常に、
全身に『香油』を塗っていた。
そして、ダンジョンに潜る時だけ、
匂いで魔物に気づかれないよう、
彼女は『香油』の代わりに無臭の油を全身に塗る。
私は、それを別のものとすり替えていた。
同じ無臭だが、気化性と発火性の強い油と・・・。
――ライラが、全身火だるまとなってから死ぬまでには、
思った以上の時間がかかった。
その間、彼女は私の目の前で、優雅に踊り続けた。
その断末魔の叫びに対して、
私は何の罪悪感もわかなかった。
ライラの身体を包む炎は、やがて彼女が倒れ、その命が尽きた後も、
そのすべてが黒焦げになるまで燃え続けた。
・・・真っ暗闇となったダンジョンの中で、
私はひとり締めくくるように言った。
「『そしてパーティーは全滅した』・・・」
と・・・。
【つづく】
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『君』は読み進める。
まだ続くのか、と思いながらも、
それでも気になって読み進める。
――もちろん『君』は、
次の回に行く前に画面を下にスクロールして、
『応援』や『コメント』を入れる事も決して忘れない……。
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