辺りは真っ暗になり


 ~~~~~~~~~~~~~


 ダンジョンに静寂が訪れた。


 ライラは、ドワーフの人形を握ったまま、

 ウーゴの死体を見つめる。


 茫然自失としているようだ。


 だが、カンテラを動かし、灯りを揺らした瞬間、

 彼女はハッとした。


「ノックに殺される・・・!

 逃げないと・・・!」

 ライラの顔に再び、緊張と恐怖が走る。


「灯りを小さくして・・・早く・・・」

 言うやいなや、ミノタウロスが来たのとは、

 逆の方向に向けて駆けだす。


 ライラは必死になって、走り続ける。


 決して後ろは振り返らない。


 死は、彼女のすぐそこまで迫っているのだ・・・。



 ――やがて、限界が来て、ライラはうつ伏せに倒れこむ。


 その瞬間、彼女の持っていたカンテラが地面に当たり、

 灯りが消える。


「あ・・・」

 ライラはしまった、と言うように首を上げる。


 だが、そのカンテラはもう使い物にならない。


「これ以上、灯りが消えてしまったら・・・」

 ライラは恐怖している。


 ダンジョンで灯りを失う・・・、

 その事に、今の彼女にはそれ以上の意味があるからだ。


「あの童謡・・・、ドワーフの詩・・・。

 最後の歌詞はこうだったわ・・・。

『一人のドワーフのたいまつが消えた

 辺りは真っ暗になりそして』・・・そして・・・」

 ライラはブツブツとつぶやいている。


「『そして』・・・、その後はどんな結末だったかしら・・・。

 確か、ニコルが説明してくれたような・・・」

 どうやら、本当に思い出せないようだ。


「皆の前では、昔歌っていた童謡だと嘘をついてしまった・・・。

 だって・・・、あの時はまだ、ニコルから教わったなんて言えなかったから・・・。

 わたし達の間で、ニコルの話は絶対しない事になっていたから・・・。

 わたし達の手で・・・、あの日から・・・」

 もはや限界が来たのか、

 ライラはついにその事実を口にした・・・。


 ――そこから、彼女の告白が始まった。


「ニコルは、わたし達『金色こんじき六翼ろくよく』の一員だったけれど、

 他の皆は彼を下に見ていたわ・・・。

 それは、ニコルが戦闘職ではない荷物持ちポーターだったから・・・」

 苦々しそうに言うライラ。


「でも、わたしは彼を評価していた。

 ダンジョンでどんな状況に陥っても、

 ニコルは決してパーティーの荷物を失う事はなかった。

 そうやって彼が守ってくれたアイテムのおかげで、

 何度皆の命が救われた事か・・・」


 ライラの告白は続く。


「依頼以外の生活面でもそう。

 ニコルは、パーティーの財政管理や、アイテムの購入、

 必要な交渉、装備品のメンテナンスなんかもやってくれていた。

 

 わたし達の身体を気遣って、

 一日一食は彼が栄養のあるものを作ってくれていたわ。

 

 たとえ雑用担当の荷物持ちポーターでも、

 彼は『金色の六翼』の一員だったのよ・・・!」

 懐かしそうに語るライラ。


 だが、そこから彼女の顔は、

 苦しそうに歪みだす。


「そんなニコルを、皆は裏切ってしまった・・・。

 あの時、わたし達は彼が止めるのも聞かずに、どんどんダンジョンの奥まで進んでしまったの。

 そこまで、ほとんど敵に遭わなかったせいで、皆気が大きくなっていて・・・」


 ライラは続ける。


「ダンジョンの奥にはドラゴンがいた。

 それが現れた瞬間、わたし達は立ち尽くしたわ・・・。


 だけど、すぐにウーゴが、

 ニコルをドラゴンの前に突き飛ばした。

 きっと、彼を囮にしようとしたんだわ・・・。


 なのに、ニコルはそのまま、

 ドラゴンに近づいていったのよ。

 ドラゴンのほうもニコルのほうに寄ってきた。

 まるで、お互い惹かれあうかのように・・・。


 そして、ニコルがドラゴンに手を触れると、

 彼らの身体が一瞬輝いたわ。

 あれは、従属化テイムの光だった・・・!」

 その時の光景を思い出すように語るライラ。


 だが、その顔はどんどん引きつっていく。


「ニコルは従魔士テイマーだった。

 ただし、ドラゴン限定のね。

 だからそれまで誰も・・・、

 彼自身でさえ自分の能力に気づかなかった。

 従属化テイムされたドラゴンは、完全にニコルに懐いていたわ。

 ニコルは、子供や動物に好かれていたけれど、彼らと同じ顔をドラゴンがしていた」


 そこでしばらく、ライラの告白が止まった。


 その先を言えば、全てが終わってしまうとでもいうように。


 もはやこの時点で、既に手遅れなのに・・・。


 ライラは、苦悶に満ちた表情で言った。


「そのドラゴンに、ウーゴはいきなり斬りつけた・・・。

 従属化テイムされていたせいで、ドラゴンはまともに喰らっていたわ。

『よくやったニコル!こいつを倒せば、俺たちは大金星だ!!』

 ウーゴはそう言ったわ。

 

 ニコルはそれを止めようとした。

 従属化テイムで敵ではなくなった魔物を手にかけるのは、

 絶対にやってはいけない残虐な行為だって。

 

 だけど、ニコルの言葉を聞く人は、誰もいなかった。

 わたしも・・・、こんな大物が刈れるのならって思ってしまったわ・・・」


 もはや、ためらいなく、

 開き直ったようにその罪を告白し続けるライラ。


「ニコルは、必死でドラゴンを護ろうとした。

 最後には、ドラゴンに命令しようとさえしたわ。

 きっと・・・、わたし達を攻撃させようとしたのね。

 仲間のわたし達より・・・、わたしより魔物の命を選んで・・・。

 

 わたしは、後ろからニコルを刺した・・・。

 持っていた解体用のナイフで・・・。

 仕方なかったのよ・・・。

 あの時は、ああするしかなかった。

 そうしなければ、わたしはドラゴンに・・・、

 ニコルに殺されていたんだから・・・」

 ライラは遂に、自分自身の罪を明かした。


 いかにも彼女らしく、

 自己弁護をまじえて・・・。


「でも、他の皆は違った。

 ただドラゴンを刈るために・・・、

 そのためだけに、邪魔をするニコルを殺したのよ。

 わたしがニコルを刺したのを見て、

 皆開き直ったように、彼に攻撃しだしたわ。


 リリアンは火炎魔法ファイヤーで・・・。

 ギースはナイフで首筋を・・・。

 モリアードはボーガンで脚を撃って・・・。


 ウーゴは、ドラゴンを仕留めてから、

 ニコルを攻撃していたわ。

 先に従属化テイムが切れたらまずい、

 と判断したのかしら。

 狡猾こうかつな彼らしいでしょう・・・。


 彼は、表情一つ変えずに、

 ニコルの胸を切り裂いたわ」


【つづく】


 

 _________________________


『君』は読み進める……。


(なついた魔物の命を重んじる側と、しょせん魔物と切り捨てる側……。

 価値観の相違というやつか……。


 なるほど、この悲劇が犯人の動機か。


 そして、その犯人はどっちだろう……。


 ライラか、それとも……。


 やれやれ……、こっちのも激しくなってきたぞ!

 

 よし……、次の回に行く前に、

 画面をスクロールして、

『応援ボタン』や『コメント』は入れてやる!。


 さあ続きだ!)




























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る