一人がカラカラに乾いて二人になった(下)


 ~~~~~~~~~~~~~


 それからは、無言で歩き続ける三人。


 魔物が現れないのは、不幸中の幸いだろう。


 しばらく進むうちに、

 ようやく見覚えのある道にたどり着いた。


「確か、ミノタウロスはこの先のはずだ」

 以前潜った時に作成した地図を見ながら、

 ウーゴが指さした。


「ここで補給をしておこう。

 携帯食料は、まだあるよな?」


 皆、顔が疲れ切っていた。


 それぞれ近くの岩に腰掛け、黙々と食事を始める二人。


 縛られているライラには、

 その口元に持っていき食べさせる。


 口を聞くものはない。


 咀嚼音そしゃくおんが聴こえるほどの、

 見た目だけは静かな食事・・・。



 ――作業としての食事が終わり、

 ウーゴたちは戦闘前の準備を始める。


「モリアード、付与を頼む」


「了解」

 モリアードは手をかざすと、

 付与術をウーゴと自分にかける。


 ミノタウロスは強敵だ。


 二人とも、事前対策に集中している。


 その時だ!


 ライラが無防備のモリアードを突き飛ばすと、

 そのまま二人から逃げ出した!


 縛ったはずの両手が自由になっている事に、

 二人は慌てる。


「くそっ、いつの間に縄を切ったんだ!」

 ウーゴは慌ててライラを追いかける。


 暗がりの道に逃げ込むライラ。


 ウーゴもその闇の中に身を投じる。


 だが、カンテラを置いて追いかけたため、

 当然、彼女の位置が分からない。


「くそっ!

 どこだライラ、出てこい!!」

 などと、逆に自分の位置は教えてしまっている。


 おそらくライラは、音を立てないよう物陰でじっとしているのだろう。


 このままではジリ貧だ。


 そう判断したであろうウーゴは、

 暗闇に向かって穏やかな口調で言った。


「ライラ・・・頼む、出てきてくれ。

 今、俺たちにとって一番大事なのは、無事に依頼を達成して戻る事だ。

 お前だって、俺たち『金色こんじき六翼よくよく』の一員だろう。

 ミノタウロスを倒すには、皆の力が必要なんだ」


「・・・」


「ニコルの事は・・・、俺も後悔している。

 になる前に、もっと話し合うべきだった。

 無事に帰ったら、一緒にギルドに行こう。

 の真実を伝えて、罪をつぐなうんだ・・・!」


「・・・」


 闇の中から、ライラが恐る恐る姿を現す。


「罪を償う・・・、本気ですか・・・?」


 ウーゴは近づかずに、その場で答える。


「ああ、もちろんだ。

 こんな事をさせてしまうほど、お前を追い詰めたのは俺たちだ。

 お前の罪は、俺たち全員の罪でもある。

 の事・・・、そして今度の事・・・。

 今度こそ、残った皆でその罪を背負おう・・・!」


「わたしは・・・、三人を殺していません・・・」

 すがるように言うライラ。


「え・・・あ、いや、分かっている。

 悪かった、芝居とはいえ乱暴をして・・・。

 だが、あいつを油断させるためには、ああするしかなかったんだ・・・」


 ウーゴのその言葉に、

 ライラは驚いた顔をする。


「芝居・・・、それにあいつって・・・、まさか・・・」


「そうだ。

 ノックが殺された時の事を思い出してみろ。

 ゴブリンの奇襲を受け、俺とお前はお互いが見える位置で戦っていた。

 だが、モリアードはどうだ?

 あの時、奴がどうしていたか、お前は分かるか?」


「いえ・・・」


「リリアンの時もそうだ。

 あいつが階段を転がり落ちたのは何故だ?

 モリアードは支援魔法の使い手だ。

 おそらく、睡眠魔法スリープで、リリアンの意識を奪ったんだ」


「でも、ギースの時は!?

 アンデッドの群れから逃げている時、

 モリアードはずっと私の前を走っていましたよ?」

 そう反論するライラ。


 だが、ウーゴは冷静に言った。


「逃げ切ったあと、モリアードはお前に、しばらくその場で休むように言ったんだろう?

 その間、奴はどうしていた?」


「それは・・・分かりません」


「きっとその時だ。

 モリアードは、隠れているギースを発見して・・・、

 殺したんだ・・・!」

 おそらく、今までのウーゴの言葉は、

 ライラを懐柔するための出まかせだろう。


 最初はライラが殺したという前提で、情に訴え説得していたのを、

 途中からモリアードがやったという話に変わっている。


 だが、その推理は、一応のつじつまが合っている。


「でも・・・」

 ライラは納得がいかないようだ。


「いくら何でも、無理がありませんか?

 わたし達は、たまたまアンデッドの群れに襲われたんですよ?

 つまり、ギースがはぐれたのも偶然じゃないですか。

 ノックの時だってそうです。

 ゴブリンの奇襲なんて偶然がなければ・・・」


「それが・・・偶然じゃなかったとしたら?」


「え?」

 ライラは、何かを思いついたという顔のウーゴを見た。


 だが、


「ぎゃあっ!!!!」


 後ろから、恐ろしい悲鳴が聴こえると、

 二人は会話を中断した。


「モリアード!?

 しまった!」


「魔物がモリアードを!?」


 瞬時に二人は、来た道を駆け戻る。


 置いてきたカンテラの灯りを目印に、

 先ほどまでいた場所に戻ると、

 そこには瀕死のモリアードが倒れている。


 その腹部には一本の剣が、

 深々と突き刺さっているのだ。


 それを立ち尽くした状態で見下ろしていたライラだったが、


「ライラ!

 早く回復魔法ヒールを!」


「は、はいっ!」

 ウーゴの言葉で、すぐに我に返る。


 ウーゴに剣を抜き取ってもらい、動転しながらも懸命に、

 魔力を振り絞って回復魔法ヒールを唱え続ける。


 だが、モリアードの顔はどんどん死相を帯びてきている。


 にもかかわらず、ライラの魔力は限界がきてしまっている。


 その手から放たれる回復魔法ヒールの光が、

 どんどん小さくなって・・・。


「何をしている!

 もっと魔力を絞り出せ!」

 そんなウーゴの叱咤しったもむなしく、

 とうとうライラの魔力は尽きた。


 ――モリアードは死んだ。


 その死体を見つめながら、ライラはつぶやいた。


「最初の時、あんな軽い傷に魔力を使ったりしなければ・・・」


 最初のゴブリンの奇襲の時、

 メンバーはゴブリンの武器に毒が付いていたと恐怖し、

 かすり傷にすら回復と解毒を要求していた。


 あれでライラは、半分近い魔力を消費していたのだ。


「あの詩の歌詞は、そういう解釈だったんですね・・・」

 ライラは、誰に聞かせようというわけでもなくつぶやいた。


「ドワーフの童謡か?」

 背後から、ウーゴが尋ねる。


「『三人のドワーフがお酒を飲みつくした

 一人がカラカラに乾いて二人になった』・・・。

 あれは、食料だけでなく、パーティーの余力の事だった・・・。

 わたしが・・・、だからパーティーは二人になった・・・」


「ライラ・・・」


 モリアードにカンテラを近づける。


 ふと、ライラはモリアードの手元に気づいた。


「何か握って・・・まさか・・・」


「何だと!?」


 その手元にカンテラを当てながら、

 二人はモリアードの手を開いた。


「そんな・・・どうして・・・」


「何故、これをモリアードが!?

 確かに壊したのに・・・。

 それにこの脚の傷は・・・」


 二人は愕然とした。


 モリアードが握っていたのは、

 焦げ跡が付き、喉に・・・そして、

 脚にも穴を開けられたドワーフの人形だったのだ・・・。


「やっぱり・・・やっぱり、ニコルが・・・」

 そう言って、ガタガタと震えるライラとは反対に、

 ウーゴは考え込むように黙った。


 そして言った。


「人形が一つだけだったとは限らない・・・。

 そうだ、人形は複数あったんだ・・・!

 その全てに同じ傷が付けてあったせいで、

 俺たちはそれを一つの人形と思い込んでしまったんだ!」


 だが、ライラの顔は引きつったままだ。


「でも、それなら・・・、

 誰がモリアードの手に、その人形を握らせたのですか・・・?

 彼の悲鳴が聴こえた時、誰も近くにはいなかったはずです・・・」


 すると、ウーゴは残忍そうな笑みを浮かべて言った。


「とぼけるのか?

 見ろ、この剣を!」


 ウーゴはモリアードを刺した剣をつかんで、

 ライラの前に見せた。


 ライラの目が、驚愕のためか見開かれる。


「これは・・・」


「そうだ、これはノックの剣だ!

 奴は生きていたんだ!!

 死んだフリをして、俺たちの後をつけてきたんだ!

 ライラ、俺たちを殺すためにな!!」



【つづく】


 

 _________________________


『君』は読み進める……。


(え~、まさかの共犯説?


 いや、それ以前に、殺されたと思っていた人物が実は犯人だったって……、

 どこまで某古典ミステリーをパクる…もとい、参考にする気だよ……。


 ちょっと露骨すぎないか、我妻わがつまクリスよ……。


 色々と国語力も怪しい文章のくせに……。


 だが……、それを理由にこんなところで中断はできない。


 物語もどうやらクライマックスが近いようだし。


 よし……、次の回に行く前に、

 画面をスクロールして、

『応援ボタン』や『コメント』は入れてやるか……)


『君』の熱はまだまだ上がる……。





























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