一人がカラカラに乾いて二人になった(中)


 ~~~~~~~~~~~~~


 重苦しい沈黙が三人を包む・・・。


 ――やがて、モリアードが絞り出すように言った。


「それで・・・、これからどうするんだい?」


「どう・・・とは?」

 と、問い返すウーゴ。


「誰が三人を殺したか話し合うのか、という意味か?」


「いや・・・、残念ながらそんな時間はないだろう。

 ふざけた事に、さっきアンデッドの群れから逃げた時に、荷物の大半を放り捨ててしまったらしい。

 まったく、ふざけてるね・・・。

 食料も火種も、ほとんど残っていないときた」

 嫌味たっぷりに言うモリアードのその言葉に、

 ビクリと反応するライラ。


 だが、そんな彼女の様子には気づかず、二人の会話は続く。


「それにウーゴ、

 そんな話し合いは無意味だよ。

 ここにいる三人全員が、同じような行動を取ってきたんだ。

 いつまでたっても結論なんか出ないさ。

 私が聞きたいのは、先に進むか引き返すかという事さ」

 モリアードのその言葉に、

 ウーゴもライラも耳を疑ったようだ。


「先に進む・・・だと?

 お互いを疑い合っているこの状態で?」

 ウーゴは、さらにモリアードへの警戒を強める。


 だが、モリアードは構わず続ける。


「そうさ、このまま三人で一緒に行動する以上、

 帰り道だって危険なのは変わらない。

 なら、先に進んでも同じじゃないか。

 目当てのミノタウロスはこの階にいる。

 それを倒してから帰っても、遅くはないだろう?」


「・・・自分を狙っているかもしれない相手に、背中は預けられない・・・」

 と、拒否するウーゴ。


 先ほどから、その手はずっと腰の剣に触れたままだ・・・。


「それは私だって同じだよ、ウーゴ。

 だから、一時休戦といこうじゃないか。

 ここにいる三人全員が、依頼を終えて戻るまで協力し合うと誓うんだ」


「誓いだと?

 そんなもの信用できるか」


「誓うだけじゃない。

 その言葉が嘘じゃない事を、行動で証明するんだ」


「証明・・・どうやって?」


「これさ」

 そう言ってモリアードは、ドワーフの人形を掲げた。


「この兇徒はんにんり方には、

 一種の美学・・・というか、病的なまでのこだわりが感じられる。

 ライラの言ったように、詩の歌詞になぞらえて殺したり。

 殺した相手の手に、歌詞に出てくるドワーフを握らせたり。

 そして、その人形に、その・・・を付けたりね」


「・・・ああ」

 ウーゴも同意する。


「つまり、この人形は兇徒はんにんにとって、

 その凶行をいろど必須ひっすアイテムという事さ。

 だから、この人形をこの場で壊してしまえば・・・」


「殺し方にこだわる兇徒は、これ以降の凶行が不可能となる・・・!」


「あ、あの・・・」

 ライラがためらいがちに口を挟んできた。


「本当に・・・壊してもいいのでしょうか・・・?

 逆に、兇徒はんにんが逆上したら・・・」


 その言葉を聞いた瞬間、

 ウーゴとモリアードの視線が冷たいものに変わる。


「なるほど・・・、お前だったのかライラ」

 ウーゴは静かに剣を抜く。


「え?」


「今この状況で、人形を壊すのを止める者・・・、

 それは兇徒以外にはありえないよね」

 モリアードも、手持ちのボーガンをライラに向ける。


 そこでようやく自分の言動の意味を理解したのか、

 ライラは慌てて、


「ち、違います!

 わたしはそんな意味で言ったんじゃありません!!

 こ、壊していいです!

 人形・・・壊していいですからぁっ!!」

 泣きながら必死で弁解するライラ。


 よく見れば失禁もしている。


 その哀れな様に、武器を向けていた二人も仕掛ける事をためらっている。



 ――最終的に二人は、ライラを縄で後ろ手に縛って連れていく事にした。


 回復アイテムを失った今、回復術師ヒーラーの存在は必要だ。


 そんなライラの目の前で、

 ウーゴは人形を地面に落とし、何度も踏みつけて見せた。


 やがて粉々になったのを確認すると、

 ライラに向かって言った。


「これで、お前の計画は失敗に終わったわけだ。

 おおかた、今頃になってニコルの事を後悔しだしたんだろう。

 ・・・お前も、なのにな」


 その言葉に、ビクリと痙攣けいれんするライラ。


 ウーゴは満足げに鼻を鳴らすと、


「行くぞ」

 そう言って、先頭を歩き始まる。


「ほら、さっさと歩きなライラ」

 モリアードはライラの背中を乱暴に押して、自分の前を歩かせる。


「違う・・・、わたしは・・・本当は・・・」

 と、つぶやき続けるライラも、

 二人にはさまれてフラフラと進む。


「そう言えばライラ、

 私とウーゴはどうやって殺すつもりだったんだい?」

 後ろから、嫌味まじりに聞いてくるモリアード。


「わたしじゃありません・・・」

 ライラは無表情に返す。


 モリアードは肩をすくめると、

「ドワーフの童謡には、まだ続きがあるんだろう?

 ドワーフが三人になって・・・、その後はどんな歌詞なんだい?」

 と、微妙に質問の方向を変えてみる。


 ライラは答えた。

「『三人のドワーフがお酒を飲みつくした

 一人がカラカラに乾いて二人になった


 二人のドワーフがケンカを始めた

 一人が金づちで叩かれ一人になった』・・・」


 そこまで聞いたところで、

 モリアードは笑った。


「何だいそれ?

 ケンカのほうは分かるけど、お酒を飲みつくしたっていうのは?

『ダンジョンでの飲酒は危険ですよ』っていう意味かい?」


「おそらく、『食料不足による消耗に注意』という意味でしょう。

 ドワーフにとって、お酒は食事と同じようなものですから」


「なるほどねえ、今度は兵糧ひょうろう攻めか。

 確かにさっきアンデッドの群れのせいで、

 荷物を失ってしまったからねえ。

 でも・・・」


 モリアードはポケットから腰に取りつけた袋から、

 携帯食料と水筒を出して見せた。


「予備の食事が、まだちゃんと残っているよ。

 当てが外れたねえ」

 そう言ってあざ笑うモリアード。


 だが、ライラは何も言わない・・・。



【つづく】


 

 _________________________


『君』は読み進める……。


(おいおい、まだ次の犠牲者が出ないのかよ?


 もっとテンポよく死なないと駄目だろう・・・。


 まあ、タイトルに『(中)』ってあるし・・・、

 次の話は『(下)』だから、ちゃんと死んでくれるはず・・・。


 誰が死んでくれるのかな・・・。


 ――一応、次の回に行く前に、

 画面をスクロールして、

『応援ボタン』や『コメント』は入れてやるか・・・)























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