一人がはぐれて三人になった(下)


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 地下四階。


 現れる魔物も強敵ばかりだ。


 無用な戦闘は、極力避けなければならない。


 だから『金色こんじき六翼ろくよく』も、斥候スカウトのギースに慎重に辺りを探らせながら進んでいた。


 だが・・・、


「くそっ、何でゾンビがこんなに・・・」

 そう毒づくギース。


 彼らの目の前には、数十体はあろうかという人型、犬型、小鬼型と、

 バラエティーに富んだアンデッドの群れが待ち構えていた。


 既に死んでいるアンデッドの類は、

 気配がないため冒険者に感知されにくい。


 そして群れの奥には、その全てを操る死霊術師ネクロマンサーが・・・。


「ネ、死霊術師ネクロマンサー・・・?

 それもこんなに兵隊を造って・・・」

 ライラが早くも震えだしている。


 ウーゴもモリアードも、皆立ち尽くしている。


 そんな彼らを死霊術師ネクロマンサーが、眼球のないドクロの目を向け、

 白骨の指先で指し示した。


 それと同時に、数十体の不死の群れが『金色の六翼』に向かって・・・


「逃げろっ!!」

 リーダーのウーゴが叫ぶと、

 皆我に返ったように全力で逃走しだした。


 後ろを振り返る者は誰もいない。


 一体どこをどう走ったのか、

 それすらも分からない。



 ――やがて、限界がきたウーゴはその場に倒れこんでしまう。


 息も絶え絶えに、祈るように後ろを振り向く。


 その先にまだ自分を追ってくる存在を認めると、絶望したような顔を見せた。


 だが、それがアンデッド共ではなく仲間のモリアードだと分かると、ウーゴは安堵の笑みになった。


「モリアード!

 お前も逃げ切れたんだな」


「ウーゴ・・・ひどいじゃないか・・・。

 仲間を・・・置いて・・・いく・・・なんて・・・」

 激しく息を乱しながら、文句を言うモリアード。


「置いていったわけじゃない。

 皆一緒に逃走していたが、体力の差が出てお互い離れてしまっただけだ」

 と、説明するウーゴだが、彼が逃走中に仲間の無事を確認するため後ろを振り返った記憶はない。


「それより、他の二人はどうした?

 まさか・・・」


「大丈夫、ライラも無事だよ。

 安全を確認したところで休ませてあげることにした。

 息を整えたら、こっちにやって来るさ」


「そうか・・・」


 モリアードの言葉通り、

 しばらくしてライラが、ふらふらとした足取りで姿を見せた。


 もはや体力の限界といった様子だ。


 それを見たウーゴが、

「ここで一旦休憩しよう。

 さっきの群れも無事に振り切ったようだしな」

 と提案した。


「は、はい」

 渡したスタミナポーションをゆっくりと飲むライラ。


 それでも、探索可能なほどに回復するには、しばらく時間がかかった。


「――すみません、もう大丈夫です」


「そうか。

 しかし、すっかり知らない道に出てしまったな」

 と、周りの様子を見てため息をつくウーゴ。


「こうなると、ギースの探索能力だけが頼りだね。

 どこまで見に行かせているんだい?」

 というモリアードの言葉に、

 ウーゴは怪訝な顔をした。


「見に行かせて・・・?

 どういう事だ?」


「え?

 だって君が今、ギースに周辺の様子を確認させているんだろう?

 知らない道なら、斥候スカウトに先行させて調べてもらわないとね」


「俺は・・・まだギースを見ていないぞ。

 てっきりライラと同じで、一息つかせているのかと・・・」


 二人は顔を見合わせた。


 ――ようやく事態を理解して。


 その時、

 二人の会話を聞いていたライラが、

 青ざめた顔で言った。


「『四人のドワーフが道に迷った・・・

 一人がはぐれて三人になった・・・』」


 その言葉に振り向く二人。


「それは・・・例の詩の続きかい?」


 モリアードのその問いに、

 ライラはコクコクとカラクリのようにうなずく。


「はい・・・、

 こんな・・・やっぱり・・・」


「探しにいこう!」

 と、二人を促すウーゴ。


 ギースを想っての行動ではない。


 おそらく、彼の無事を確認しない事には、押しつぶされそうになるからだ。


 自分たちの理解を超えた正体不明の脅威、

 その恐怖によって・・・。


「でもウーゴ・・・、

 戻ったらまた、アンデッドの群れが・・・」


「分かってる。

 だから途中まで・・・、途中まで戻ってみよう」


 モリアードもライラも、

 またあの群れに遭遇する心配はあるようだが、

 少なくとも全力で走れば逃げ切れる相手だと、今は分かっている。


 ゆっくりと慎重に、

 三人は逃げてきた道を戻っていく。


 だいぶ来たところで、

 カンテラを壁のほうに向けると、


「あれ・・・?

 そこの壁に別の道が・・・」

 と、ライラが照らされた先を指さす。


 言われて二人も足を止め、

 持っているカンテラをかざす。


「敵が隠れている様子はないな・・・」


「一応見てみるかい?」


 そう言って三人は、その発見した道に入っていく。


 道はかなり先まで続いているようだが、

 三人がそこまで進む必要はなかった。


 何故なら、割とすぐのところで、ギースの死体を発見したからだ・・・。


「そんな・・・」

 ライラがその場に尻をつく。


 ウーゴとモリアードが死体にカンテラを当てて調べる。


「体中傷だらけだ。

 あの群れにやられて、ここに逃げ込んだのか・・・」


「そして、じっと隠れていたけれど、そのまま力尽きてしまったと・・・」


 確かにうずくまって倒れているギースの死体は、

 二人の見立てに符合していた。


「あの群れの一番近くにいたからね・・・。

 気の毒に・・・」

 そう結論付けるモリアード。


 だが、


「人形は・・・」

 というライラの言葉に、二人は振り向く。


「人形はどうですか・・・?

 あのドワーフの人形は・・・」


 言われて、改めて死体にカンテラを向ける二人。


 丸めた体の胴の下に隠れていた手を無理やり引っ張りだす。


 コトン、という音と共に、その手から人形が滑り落ちた。


 拾い上げたモリアードが、その人形を調べる。


「ドワーフの人形だ・・・。

 焼け焦げた跡もある・・・。

 ギースが、リリアンの形見に持ってきたのかな・・・?

 それだけでなく、新しく傷がついている・・・」


 そう言って、モリアードは二人にも人形を見せた。


「確かに、人形の顔の下・・・喉の辺りに穴が開いている」


「やっぱり・・・、

 やっぱり、ニコルの呪いなんだわ!」

 ウーゴの言葉を聞いたライラが、

 突然叫んだ。


「ニコルはあの詩をよく知っていた!

 前に、ギルドのあの額の前で、歌詞の意味を教えてくれたわ!

 そのニコルをあの時、ギースはナイフで・・・」


「黙れっ!!」


 ヒステリックにわめきたてるライラを、

 ウーゴが怒鳴りつけて黙らせる。


 そして、緊迫した声で続ける。


「――俺にはよく解った・・・。

 これは呪いでも何でもない。

 三人が死んだのも、ドワーフの人形も、

 全て生身の人間の仕業だ」


「生身の人間って・・・、

 ここには我々しかいないじゃないか・・・」

 震える声で言うモリアード。


「そうだ。

 つまり・・・」


 ウーゴは言った。


「その人物は俺たちの中にいる」


【つづく】



 _________________________


『君』は読み進める……。


(来た来た、遂にこの場面が!


 クローズドサークルものに必須の緊迫シーン、

『犯人は我々の中にいる』!


 容疑者は三人か……。


 リーダーのウーゴ、

 ニコルと昔馴染みだったらしいライラ、

 あとモリアード。


 個人的には、ライラが犯人であってほしいな。


 色々と背骨バックボーンが厚そうなキャラだし。


 逆に、モリアードが犯人っていうのはつまらないな。


 それならウーゴが犯人なほうがまだマシだな……。


 さてと、次の回に行く前に、

 画面をスクロールして、

『応援ボタン』や『コメント』で評価をして、と)


 ――興奮で、熱が上がってきている『君』だった……。



























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