少年魔術師、壮大な三角形を描く(202309改稿)

 ♦ ♦ ♦


「カンパーイ!!!!!」」」」」


 翌日、冒険者ギルドは一日中どんちゃん騒ぎであった。


 打ち取った魔物達はギルドで素材として解体され、

 翌日にはその代金が彼らのふところへ・・・というわけである。


「ところで聞いたか?

 アルのやつ・・・」


「ああ、

 治療院に担ぎ込まれたらしいな」


「オイオイオイ、

 死なないよなアイツ・・・」


「今回、

 一番の功労者だってのにな」


「あと、

 クリスの情状酌量の件な・・・」


「俺としては、

 それだけちょっと納得いかないけどな」


「まあまあ。

 とりあえずハッピーエンドで何よりって事で」 


「俺達も懐がうるおったしな」


「違いねえ!あっはっは!」


 懐中ふところが温まれば度量ふところも深くなる。


 つまるところ、

 冒険者とはそういう分かりやすい者たちなのだ。




 ♦ ♦ ♦


「はい、アルさん、あ~ん」


「い、いやサーニャ、

 自分で食べられるから・・・」


「駄目です。

 ベッドから出られるまでは、

 わたしの言う事を聞いてもらいます」


 そう言って切り分けた果物を押し付けてくるサーニャと、

 恥ずかしさから無駄な抵抗をしてしまうアル。


 

 ―――あの戦いから一週間。


 見た目こそ回復したものの、

 まだまだ身体に蓄積されたダメージは取れない。


 だが、

 アル達は勝ったのだ。


 ダンジョンの主である、

根源こんげん』に・・・!




 ―――あの時・・・、


 アルが唇を重ねた直後、


【あああッ!!!!】


 クリスの全身から黒い霧状のものが噴出され、

 同時にその表情かおに、

 自我の輝きが戻ったのである。


「ア、アル・・・」


「クリス!」


 今しがた起きた出来事に狼狽するクリスと、

 構わずさらに抱擁ほうようしてくるアル。


「ちょっ・・・!

 アル・・・!?」


「そのまま押さえていてください、アルさん!」

 と、こちらへ猛然と迫ってくるサーニャ。


 その手に握られた退魔の聖剣・・・!


「ひっ・・・!」

 クリスは思わず目をつむった。


 だが、サーニャはその直前で、

 地面を蹴って二人の真上へと跳躍!


 その上空にただようクリスの身体から黒い瘴気しょうき

根源こんげん』・・・!


 その邪悪なる存在に向かって、

 サーニャは聖剣を振り下ろした!!


【ウボァァ――ッ❕❕❕❕】


 断末魔の叫びと共に『魔』は霧散し、

 そして、かき消えたのである・・・。




 ―――今でもアルには分からない。


 あの瞬間、クリスに自我が戻ったため、

『魔』がはじき出された。


(けれど・・・)


 何故でクリスは正気に戻れたのか・・・?


 本人に聞こうにも、

 あれからクリスとは会えていない。


 だから代わりに、

 発案者のサーニャに聞いてみたのだが、


「はぁ・・・、

 ちょっとだけクリスさんに同情します」


 と、何故かため息をつかれる始末・・・。



 と、そこへ、

 コンコンコンとノックの音が。


「はい」


 と、アルが返事をすると、

 ためらいがちにドアが開き、

 入ってきたのは・・・


「クリス!」


「アル・・・」


 以来だった。


 そんな二人を見て、


「(しまった・・・、

『面会謝絶』の札をのを忘れていました・・・)」


 と、つぶやくサーニャ。


 そんな彼女にクリスは遠慮がちに、


「悪いけど、

 少しだけ外してくれないか・・・?

 アルと・・・二人で話がしたいんだ」

 と、頼んできた。


 それに対しサーニャは、


「分かりました」

 と、あっさり承諾したかと思いきや、

 すれ違いざまに、


「あなたはわたしに借りがあります。

 抜け駆けは禁止ですからね」

 と、何か


「分かって、いる・・・」


 悔しそうな顔をするクリス。


「?」

 アルには二人のやり取りがさっぱり分からない。


 そして、

 部屋には二人だけとなり、

 しばしの沈黙。


「クリス・・・、」

「アル・・・、は・・・」


 何か言おうとしたアルだが、

 それにかぶさるようにクリスがくちびを切った。


「わたしは・・・、お前が気に入らなかった・・・。

 ひとりあとからパーティーに加わったくせに、

 わたし達に意見してきたり・・・、

 何の得にもならないのに、

 身銭を切って赤の他人を助けたり・・・、

 さんざんわたし達に世話をかけていたお前が、

 一番周りの評価を受けたり・・・」


「うん・・・」


「パーティーの雑用を全て押し付けても、

 分け前がわたし達より少なくても、

 手柄をわたし達で独り占めしても文句ひとつ言わず、

 金魚のフンみたく付いてきたくせに、

 クビにした途端あっさりわたし達を・・・、

 わたしから離れていったり・・・!」


(・・・ん?)


「だけど・・・、

 今回の事はお前に助けられた。

 それは事実だ。

 だから、

 それに関しては礼を言っておく・・・」


「あ、うん」


「・・・・・・」


「・・・・・・」



 ・・・再び沈黙。


 アルは妙に落ち着かなかった。


 今までのクリスと何か違う。


 そもそもこれまでが、

 こんな風に薄化粧をしてスカートを履いた姿など見たことがなかった。


 何故か自分と目を合わせようとしないし・・・。


(あ・・・)


 その時、

 改めてアルは思い出した。


 自分が彼女に何をしたか・・・。


「クリス、ごめん!」


「え?」


 いきなり頭を下げるアルに、

 クリスはびっくりした。


「あの時、

 僕は君に無理やり抱きついて、

 その上、その・・・」


「あ・・・」


 何の事か分かったクリスも、

 真っ赤になってうつむいてしまう。


「ごめんッ!

 でも、信じてほしいんだ!

 あれは君を助けるために仕方なくやったことで・・・!」


「え・・・」


「誓って言うけど、本当に、

 変な気持ちとかは全然なかったから・・・」


「・・・・・・」

 ・・・返事はない。


 (・・・・・・あれ?)


 アルが恐る恐る顔を上げると、

 そこには全身をプルプルと震わせているクリスが・・・。


「・・・クリス?」


「アルの・・・」


「え?」


「アルの・・・

 馬鹿ぁ―――――ッ❕❕❕❕」


 治療院中に響き渡ろうかという彼女の怒声に、

 廊下にいたサーニャはため息をついた。


「はぁ・・・、ライバルとしてはいい気味ですが、

 としては・・・、少々同情しますね・・・」



 ♦ ♦ ♦


 これが、後に『蛇神使いの英雄アスクレピオス』と呼ばれるアル達の

 最初の偉業である。


 その後、彼らは幾多いくたの『魔』を打ち倒し、

 数えきれないほどの功績を残し、

 人々の生活に寄り添い、

 その平穏を支え続ける事になるのだが・・・、


 それはまたいずれ、

 別の場所で語るとしよう。


【Fin】



 _______________________


《あとがき》


 これで完結です!


 いや~、第一話を描き始めてから約10年!


 何度も更新が止まってしまい、

 申し訳ありませんでしたっっ(土下座)!!


 ですが、それにもかかわらず、

 最後まで見捨てずにお付き合いくださった皆様・・・、


 本当にありがとうございましたっっっっ!!!!!


 では、また次回作でお会いしましょう!


 あ、最後にスクロールして、

 下の『応援ボタン』と星をプッシュするのをお忘れなく!!


 出来れば、作品へのレビューもよろしくです!!!


 以上、成嶋幸児でした~♪



 ~~~~~~~~~~~~~~~~


 作者:成嶋 幸児


 作品名:『魔法陣は十人十色! 品のない理由で冒険者パーティーをクビになった少年魔術師、その品性に惹かれた新しい仲間と共にのし上がる』


 ―――読了。


























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