読了後の『君』の夜(202308改稿)

 🌙 🏠 📱


「……ちょっと待てコラ」


 読了後、

『君』は思わずスマホの画面にツッコミを入れてしまった。


 日頃の疲労やら、ストレスやら、孤独やらのあれこれが溜まりまくった『君』が作品に求めていたのは、

 物語そのものの面白さではなく、

 カタルシスだった。


 寝る時間にもかかわらず、

 ついつい布団の中でスマホを手に取り、

 某小説投稿サイトを開いて、

 いわゆる『追放もの』作品を検索。


 剣と魔法のファンタジーの世界で、

 主人公を役立たずと馬鹿にしてパーティーから追放したリーダーが、

 その後どんどん落ちぶれてみじめな目に合うことで、

 ようやく主人公の力に気づきパーティーに戻そうとするが、

 既に新しい仲間と成功を収めた主人公は、かつてのリーダーを歯牙にもかけない。


 今度は逆に自分のほうが、

 主人公に見捨てられてしまうのだ。


 そんな落ちぶれたリーダーがひどい目にあえばあうほど、

 読者は気持ちがスッキリするという、

『追放もの』の作品を読むことで得られるゆがんだカタルシス……、

 いわゆる『ざまぁ』の要素を求めて『君』は閲覧を開始。


 半ば依存的に、

『君』はその作品を読み続けた。


 そして、最後まで閲覧した結果が……これである。


 何?

 クリスって女だったの?


 いや確かに、読み返してみると、

 それを匂わせる描写がちらほらあったけど……。


 いや、でも……。


 じゃあ結局…、

 これってただの痴話げんか!?


 好きな男に自分を常に見てほしい、

 自分を頼ってほしい、

 自分に従ってほしい、

 逆らわないでほしい、

 追いかけてきてほしい、

 捨てても泣いてすがってほしい……、


 そんな歪んだ愛情を持った女と、

 そこから解放された男…、

 さらに新しい女の間で繰り広げられる、

 いわゆる三角関係もの?


『ざまぁ』でも何でもなく!?


 『追放もの』なのに…

 何、このオチ……。


(…………)


「…………」

 ふとつぶやいた造語だが、

 読了後の感想としてはピッタリだった。


 深夜を過ぎてまで読み続けた『君』だが、

 求めていたカタルシスを得ることのないまま、

 作品は終了した。


 そう……、

『君』はのだ。


 後に残ったのは、

 長時間のスマホ使用による脳の疲労と覚醒……、

 そして翌日(正確には既に今日)は間違いなく寝不足だ、

 という憂鬱な気持ちと激しい後悔……。


 (最後まで読んでしまった以上、

 礼儀として星3つにレビューはするが・・・)


 ……もう何度、

 同じ失敗を繰り返しただろう。


 何度深夜に自己嫌悪におちいったことだろう……。


 だが、遠くない夜、

『君』はまただろう。


 布団の中でスマホ片手に、

 癒しの物語を求めるのだ。


 そう、

『君』はまだ……、


 この沼から抜け出せない……。 




【愛憎の追放ざまぁ編 完】


 




 ________________



 そして『君』は抜け出せない。


 最後まで読み切った作品には、

 応援ボタンやスターを押して作品を評価するものだ、という自分の中にあるルールからも。


 模範的な閲覧者たる『君』は、作者のためにもそのルールから抜け出せない……。


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