第17話 刑務所顔

「……っ」


我慢していた物が一気に流れ落ちてくる。伝ったそれは皮膚から離れ、速度を増して床へ落ちていった。


「俺に、……お前と離れる時間をくれ。お前への気持ちを忘れる時間をくれ。」


「それまでは」


そこで涼からの声が途絶えた。が、すっと息を吸う音が聞こえてきた。


「俺と関わることをやめてくれないか?」


おかしい。こんなんじゃ自分が振られた側みたいになってる。


でもこれは、恋人としてのお別れじゃない。もっと奥底の深部の話だ。


友達という関係のを一旦ストップさせて、他人になってくれということだろう。


でも、自分も涼の立場になって考えてみると、心苦しく思う。


「……わかった」


「うん……」


じゃあ。


そう言って電話は一方的に切られた。


そうだ。この瞬間から、私は1人友達を失ったのだ。


あぁ明日は絶対一重になってて、顔が浮腫んでるんだろう。


七海になんて言われんだろうな。


こんな時でもあいつが真っ先に思い浮かぶのがムカつく。


ベッドに突っ伏して家族に聞かれないように、声を押し殺しながら夜が深くなるまでずっと、泣きあかした。




翌朝、予想通りの刑務所行きな顔で自分でもおかしくなり、ははっと笑った。


もう、忘れよう。忘れるんだ。何も無かったんだ。


階段をおりて行くとお母さんに、


「あんたその顔どうしたのよお」


と聞かれたが、花粉症で目痒くて擦りまくった結果だとか言って、多分うちのお母さんしか信じないようなデタラメで通しきった。

今だけはお母さんが馬鹿で心底安心してるわ。


「おはよお、ゆうぴ……って何その目!ちょーウケるんだけど!」

仁那には予想通りの反応をされて、もはや安心した。


「うるせぇなぁ」


「裕柊、喧嘩でもしてきたの?」

七海は、必死に笑うのを堪えようとしている。バレバレだわアホ。


「お前調子乗んなよ?あと、笑うなし」


顔を直接見ることは出来なかったが、これに関してはいじってくれる方がありがたい。


不意に顔の横に手が添えられた。


七海は裕柊の頬に手をやると、一瞬だが目を合わせ、不安気な表情をした。


それも束の間、その手は裕柊のほっぺをつねって引っ張った。


「何したのか知らんけどさ、顔変わるぐらい頑張んなくていいの!分かった?」


「は、はひぃ」


つねられたままの返事はアホほど間抜けだった。


昨日の夜も、七海のこと考えてた。それで一方的にムカついてたことを思い出し、少し罪悪感が残る。


ボディタッチはいつも、超がつくほど少ないくせして、こういう時だけ近づいてくんなよ。


……うわほんと。好きだわ、まじ。


それと同時に、七海には好きな人がいるという、今思い出したくない事が浮かび、複雑な心持ちになる。


気持ちの上げ下げ激しすぎんだよ、最近。あぁキツいわ、まじで。

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