第16話 偽善

言葉を繋げることが出来なかった。こんなにもストレートに、隠すことなく自分の内を伝えることの出来る涼は凄いと思った。


それは自分に最も欠落している部分の一つだろう。こんな時でもうさぎの顔が思い浮かぶ自分に半ば呆れた。


やっとのことで、単語を繋ぎ合わす。

「てことは、…まだ、未練があるってこと?」


「未練はないと思ってた、俺も。だけどやっぱりお前の恋愛聞いたりしてると、心のどこかで悔しがってる自分がいるんだ。」


今度は自分が喋る番だと理解していたが、しばらくの間どう返事をしていいのか分からずただ携帯から聞こえる音を待っていた。


「……悪いな。お前の弱音に漬け込んでる感じだけどよ…」


「俺からしたらチャンスなんだ。今しかないと思った。」


3文字だけを振り絞って声に出す。


「……ごめ、ん」


1度深呼吸して、言葉を繋げる。


「涼とまた付き合う、ってことは考えれない」


吸い込んだ息を一気に吐き出すように声にした。


少しの間続いた、冷たい沈黙が心を凍らせてくる感じがして、痛かった。


「……そっか。やっぱそうだよな。ごめんな」


「涼が謝ることじゃないでしょ」


「…やっぱ言わなきゃ良かった」


何も、かける言葉が見つからなかった。


別に振られた側ではないのに涙が溜まって、今にも溢れだしそうだ。

どんな情緒してんだよって笑いたくなる。


「俺さ、裕柊と別れて、あぁもうなんの関わりもないただの他人になるんだ、と思ってた。だけどお前は友達っていう立場で俺との関わりを断つことをしなかった。なんなら付き合ってた頃よりも連絡は多かっただろ?」


「それだけで良かったんだ。付き合って、友達以上の関係になって、別れると友達以下の存在になるのが普通なんだよ。それを友達で終わらせてくれたお前は優しかった。」


「だけど、お前の優しさが、俺にとっては逆効果だったのかもしれない。」


「あの時、別れた日から赤の他人になってた方が幸せだったのかもしれない」


そんなことまで考えもしなかった。確かに、恋人、というレッテルが剥がれてからは心無しか連絡する頻度は高くなった。


ただそれは、自分が友達としての好きと、恋人としての好き、をはき違えていただけの話だ。


涼への好意は友達としての好きだったという事に気づいてしまった時から、連絡の頻度はみるみる減っていったのも知っている。


涼から出掛けないか、と誘われた時も断っていたのは自分だ。


そんな最低なヤツだという認識があったから、涼に対しての罪悪感が増加していった。


これ以上、種類の違う好きで誤魔化して行けるのか。それは涼に対して失礼だ、と思うようになり去年の冬、自分から別れたいと申し出たのだ。


だが、恋人としての好きの気持ちは無かったからと言って、好意がゼロだった訳では無い。


「私はっ、……今の関係のまま、ずっと、続いていきた、い」


気づくと息が詰まるような涙声で喋っていた。本当にどこまでもダサいな、自分。


「………」

「忘れさせてくれ」


「なに、を……?」


続きを聞くのが怖かった。


……………


長い沈黙の後、頭のどこかで予想はしていたような事が告げられた。


「お前を、だ」










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