取り残された努力

第14話 リアル世界

グラウンドに着くと、珍しくホームルームが早く終わったのか、3組の七海たちは先に準備に取りかかっていた。


「おー七海達、今日早いじゃん。まっちゃんのホームルームいつもたらたら遅いのにねえ」

ちなみに松ちゃんとは3組で七海達の担任の愛称だ。歳が26歳と若いということもあって生徒から割と好かれている。


「そー、今日おかげで裕柊達より速い」

この話題は七海、興味なさそう。声の抑揚のなさでそう伝わった。


「それより裕柊、聞いてよ」

こちらをバッと勢いよく振り返ると目をいつもの三倍ましで輝かせてそう言ってきた。


「私、もうすぐリアルに充実するかも知れない!」


………は。


「また、おまえ。……BTSがカムばするのか?」

お願い。嘘だと言ってくれ。


「ううん、本当だってば!今週の日曜日遊びにいく約束しちゃったもんねー」

そう自慢げに、こいつは言った。


「そうか。……何部なんだ?」

「バスケ部!!」

「イケメンなんだろうな?」

「んーもちろん」

「性格はいいのか?」

「まだそこまでわかんないけど、多分いい人だよ」

「クラスは」

「7組!」


……あー。だんだん質問を重ねるごとに自分の声に張りがなくなていくのが分かった。それとは反対にうさぎの声のトーンは明るくなっていく一方。


「じゃー上手くいったら報告してな」

そう、言葉にするのが今は精一杯だった。


「うん、もちろん!いやー先にリアルな世界にお先に失礼しますしちゃったら本当ごめんね」

七海は私を羨ましいかと言わんばかりにふざけ顔でそう煽ってくるが、正直羨ましいのはバスケ部のそいつである。


「うわ、おまえそんなコミュ力あったっけ?ずりぃーなあ」

ずりぃのは相手の男がな。


「ふんふんふん。せいぜい羨ましがるがいい」


「付き合うのは全然応援するけど、………少しはこっちもかまってよ?」

本心、そこだ。もう七海の気持ちがそちらに向かっているのなら、それは仕方がないこと。あとは七海の視界にまだ存在しておきたいだけなんだ。


「もちもちの木じゃん!友達を疎かにする奴は嫌われるんだぞー」


ああ、自分、その2人の世界のモブキャラじゃないか。くそ。



「だいじょーぶ!ゆうぴには、仁那がついていますぞー」

横から話を聞いていたのか、仁那が肩をポンポン、とたたいてきた。

……余計そんなんされたら虚しくなるんですけど、になさん。



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