第12話 お節介
仁那は名前を読んだ相手が裕柊だったことに驚きを隠せず、裕柊を見つめていた。
詳しくは目をそらすタイミングを逃してしまった、の方が正しいだろう。だが、裕柊もふざけているのかニヤニヤしながら目を逸らそうとしない。
ぼうっと昔のことを思い出していた仁那は何の話をしていたのかさえ忘れていた。
…相変わらず可愛いな。カワウソのような平たんな顔をしているが、ずっと見ているとどこか引き込まれるような魅力がある。
沖縄の子のような醤油顔の仁那にとって、裕柊は自分の容姿には無い何かがあるようで羨ましかった。
かと言って裕柊への密かな気持ちは、決して憧れなんかでは無い。
というか、こんなに優しくて裏表がなく、誰とでもわけへだてなく接することのできる人は希少だ。
だからこそ、自分だけに優しくして欲しい、自分だけ、という恋愛漫画ではヒール役がお決まりのように発する独占欲の塊のようなことを惜しくも願ってしまうのだ。
「仁那って私の顔見るの好きだよね」
つい、図星をつかれたので返す言葉を見つけられず、目線が泳いだのが自分でも分かった。
「でも、私も仁那のこと見るの好き。だって可愛いし表情豊かで変顔もクオリティ高いしね」
「それ、褒めてる?」
「褒めてるに決まってんじゃん!1から10まで褒めてたでしょ、あれは」
「いや?最後の方ちょっとディスってたよ」
「嘘だあ」
やっといつもの調子に戻ってきた。でも、もう少しだけ見ていたいってのも内心ある。
席が奇跡的にも隣で、神様には感謝しか無い。入学してすぐにこんな強烈な幸運を使ってしまってもいいのかと不安になる。
「でも、仁那って彼氏とかすぐできそうだからやだ。もし彼氏できても私に今と変わらずかまってよ?あ、でもそれじゃ仁那の彼氏に申し訳ないか」
いや、それはこちらのセリフなんだけど。
「裕柊は彼氏とかいんの?」
「んー、いたよ。元カレ」
「へー、どんな人よ!裕柊ってほんとボーイッシュだから女の子とかと付き合って欲しいとか思うんだけど」
「あ、でも女の子からは一回だけ告られたことはあるかなー」
やっぱり。なんとなくそんな気がしていた。
「え、やっぱ?だってかっこいもん」
「そんなことねーよ、そうやって褒めてくれるのも仁那ぐらいだよ」
照れながらそう言う、いつものくだり。本気だということはいつ伝わるのか。
その時は仁那が裕柊に、そういう言葉を伝えた時だということは薄々分かっているが今は考えたく無かった。
ねえ、私は"友達として"という肩書きがついた好きなんていらない。
元カレでも、告白した子でも、七海でもない。ただこっちだけを見ていて欲しい。
気づくと裕柊に抱きついていた。勝手に体が動いた。
そうして我に帰り、焦りながら離れようとする。
しかし今度は裕柊の方が仁那が離れて行かないように抱きしめてくれた。
「どうしたの。やっぱなんかあるんだ」
何も言えなくて、不意に泣き出しそうになる。
「最近、仁那、変わらず大きな声で笑ってるけど、心から笑えてないっていうか…。勘違いだったらただのお節介だけど」
仁那は何も言わずに裕柊の肩へ顔をうずめた。
「言いたくないことなら今はこのまま何も言わなくていい。だけど本当に困った時は少しでも私を頼って欲しいな」
「……今は言えそうじゃ無い」
「そっか」
今は裕柊の優しさが、痛い。裕柊の言う“困ったこと”の原因は紛れもなく、君自身なのに。
もうこれ以上好きにさせないでよ。
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