もう1人の逸脱者

第10話 キャラメルとラムネ

 裕柊は、昨日七海が上げたInstagramの投稿を見ていた。


 ――可愛すぎ


 肩と肩が触れた感覚と、あの甘い香りを今も引きずっていた。本当に心の声を出さないようにするので精一杯だ。


たった昨日の出来事だが写った2人をみていると、こんな距離が近かったのかと、何故か遠い記憶を思い出しているかのように懐かしさを感じて、右肩をすっと触った。


これが世間一般で言う、惚れっぽいヤツなのだろう。恐ろしく簡単でつまらないが、近くで見たら余計好きになってしまった。


これがいい事なのか、良くない事なのかも分からない。だが、同性を好きになってしまった時点で、そういう世界へ踏み入っている訳だから一般的な恋ではない事は既に分かっている。


別に性別を変えたいという訳でもないが、もし付き合うことが出来るのなら、いっその事その選択も悪くは無いと思ってしまうのだ。


抱き寄せた瞬間の、七海の一瞬の表情を思い返す。ほんの零点何秒か目が合ったが、相手の方が先に、すぐ目線を逸した。


もっとそうしていたかったが、これ以上見つめすぎると変に思われるだろうし、こちらもこちらで変になりそうだったから止めた。


「あ、その七海の投稿見たよ!」

横の席から仁那が画面を覗き込んできた。


「2人ともめちゃ可愛い!それ見て、びっくりしちゃった。なったんとゆうぴって仲良かったんだーって」


「いや、ね。なんでなんだろねえ」


そう考えれば、本当に不思議かもしれない。同じ区域に住んでいる仁那や、ペアストレッチ相手の綾乃とでも十分気が合いそうな気がするのだが。


「でもさ、ゆうぴのサバってしてる感じとか、話が謎に面白いとことかが好きなんじゃない?しかも傍から見てるとどっちも何考えてるかわかんないタイプだし、2人で空の雲の形の話してるのもよく聞くから笑いのツボ合いそうだし。基本的に一緒にいて楽なんじゃないかな」


「なったんもゆうぴにしか話さない事とか多いと思うし、多分ゆうぴのこと好きだと思うよ」


「謎にってなんだよ」

「本当にゆうぴって謎に面白いんだよ」

「そりゃよかった」


確かに、何考えてるか分からないとはよく言われるし、雲の形の話も好きだ。でも根本的に違うところがある。


「でも、私は基本よくいじられたりするタイプじゃん。だけど七海といるときは必ずツッコミ役に回るんだよね。」


「確かに!だってゆうぴ、になと一緒にいるときすっごい甘えてくるもんね」


「うるさい」


正直、自分でもMなんだろうなとは思う節はいくつかある。


でも七海と一緒にいて、違う意味では息が詰まりそうになるが、友だちとしては確かに気が合うところは多いのかもしれない。


唯一違う感性を持っているとしたら、それはプリキュア派と仮面ライダー派で別れる所ぐらいだろうか。いや、多分食の好みも合わない。キャラメルとラムネだったら確実にあいつはラムネを取るだろう。


私は断然キャラメルだ。となると合うのは笑うツボぐらいか。それでも、あちら側は友達としてだと思うが、好きでいてくれるならそれはそれで嬉しい。


「でも私もゆうぴのこと好きだな。だって甘えてくる時すっごく可愛いし、ふとした表情がかっこいいって思っちゃうもん。」


「またまた、仁那はすぐ私の事褒めるけど。本当にちゃんと見えてる?眼科連れていこっか?あー、なんなら診察料もだしてあげるよ。」


「いや、になは本当のことしか言わない。」


少し声のトーンを落としてそう言った仁那の表情にどこかむず痒さを感じたのだった。


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