『現代ドラマ・執事喫茶』「お帰りなさいませ、お嬢様」

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

 そんな一声で始まるのが執事喫茶。コンセプトカフェの1つで、執事に扮したキャストが客をお嬢様として扱う店である。

 そこには極上の調度品が揃っており、優雅で贅沢なティータイムを楽しめる。

 

 ――とまぁ、それが大衆の思い描く執事喫茶であろう。

 

 が、現実は違う。そういう店もあるが、執事喫茶を名乗っている全てがそうではない。わかりやすく言うと、アキバ系メイド喫茶の執事版といった店も多いのだ。

 そして、私が働く店もそうであった。

 

 ついに、こんな地方にも執事喫茶ができたのかと嬉しく思ったのも束の間。執事が好きで、紅茶が好きで――勇んで面接に向かったものの、待っていたのは金髪ビジュアル系。あろうことか、彼は店長と名乗った。

 この段階で諦めていたら良いものの、私は真面目に面接に挑み、無事採用。そうして研修に赴くと、チャラい若者たちがいた。髪の色は赤、黄、緑と信号機が揃っており、他にも紫や銀色などなど。いやもう、ここで帰っていれば良かった。

 なのに私は頑張ってしまい――信号機が欠けたりする中も残り続け、今でも頑張っている始末。


「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

 そうして今日もそのような台詞を吐いて、お出迎えする。慣れた仕草で席へと案内して、メニューの説明。


「今の季節はノエルというフレーバーティーがお勧めです。フランス語でクリスマスを意味し、それに因んだスパイスが使われております」

 私が説明すると、


「私紅茶嫌いなんで」

 お嬢様は淡々と言った。

 

 ――じゃぁ、何しに来た? と言いたいが我慢。


「コーラと夢君にキャスドリ」

 

 案の定、そのお嬢様はコンカフェらしい注文をした。1ドリンク制だから自分にコーラ。そして、キャストドリンク――執事を自分のテーブルにつかせ、会話を楽しむ。

 執事が客に貢がせてどうする、と言いたいがこれがこのお店というかコンカフェらしい。

 他にも記念撮影やボトル、果てはブロマイド販売などもある。

 

 そうなると、見た目も能力も紛うことなき執事の私は不人気であった。

 誰もが、私のことを執事っぽいと言う。本物みたいだとも。だが、それだけだ。キャストドリンクや記念撮影が入るのは、若くて格好いい他の執事たち。彼らは執事っぽくないが、お嬢様方はそれが良いと言う。


「行ってらっしゃいませ、お嬢様」

 

 私の役目はひたすらお嬢様を出迎え、見送ること。もちろん、メニューの説明や紅茶や料理の運搬もある。

 だが、他の執事のようにお嬢様と記念撮影したり会話を楽しむことは少ない。

 きっと、執事としてはこれで正しいと思う。だけど、こうもあからさまに優劣を下されるのは堪えるモノがあった。より若く、より格好いい男がちやほやされる。頭ではわかっていたが、自分の身に起こりえるとかなりきつい。

 

 もっとも、女性にとっては当たり前のことらしい。普通に生きていても、容姿の優劣をつけられる。男よりも厳しく、頻繁に。

 そう語ったのは私を贔屓――推してくださる、数少ないお嬢様だった。それでも記念撮影はなく、こうしてお喋りするだけ。


「もう少し、容姿に力を入れるべきね」


「……お嬢様がそう仰るのであれば」

 不満に思いながらも、私は肯定する。


「他のコたちはあなたを参考にして、日に日に執事に近づいている。けど、あなたは変わらない」

 

 痛い一言であった。確かに、私が下に見ていた若者たちは日々成長していた。


「お嬢様の仰る通りです」

 

 私も学ぶべき、なのかもしれない。変なプライドなど捨てて。そもそも、この店は私の店ではない。だから、経営やスタイルに文句をつけても仕方ないのだ。


「夢君」

 その日、私は人気№1の夢に教えを請うた。

「そのなんだ、メイクの仕方を教えて貰ってもいいか?」

 髪型はオールバックなので問題ない。身なりもカフスから懐中時計と隙はない。となると、私の問題は顔面――肌であった。


「いいっすよー」

 夢君は大学生で、今の時代にあった可愛い系男子。

「いっつも教わってばっかりだったんで、お返しできて良かったです」

 屈託のない笑顔でそう言って、私にメンズメイクのいろはを教えてくれた。


「これは大変だな」

 ベースメイクだけでこの手間とは。


「でも、僕たちは商品ですから。できる限り、奇麗でいるべきです」

 

 そうか、商品か。そう思うと頑張れそうだった。男がメイクなんてどうかと思ったが、商品努力と考えたら納得できた。



「あら、今日は素敵ね」

 後日、私のお嬢様は褒めてくださった。


「お嬢様のおかげです」

「そう。なら、折角だから記念撮影をお願いしようかしら」


「ありがとうございます」

 心からの気持ちだった。

 だから、もう少しだけここで頑張ろうと思えた。 

 そうして今日もまた、私は頭を下げる。


「お帰りなさいませ、お嬢様」

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