2.

 何とか無事にタワーマンションの風除室までたどり着けたノエルは、荷物を大理石の床に置き、赤いメルトン生地のダッフルコートに砂糖衣アイシングされた雪を振り払っていると、同じ階層フロアの部屋に住むいつも派手な服装をしているお姉さんが、集合玄関機オートロックを開けて姿を現す。


「あら。雪の日でもお買い物だなんて偉いわねぇ、ののちゃーん!」


 そう言い終えるまえに、お姉さんは、銀箔ネイルが綺麗に光る白くて細い指でノエルを強く抱きしめる。


「ひゃめてください……く、くるひぃへふ……」


 顔が胸元に押し潰されて息苦しい。

 何かと理由をつけて熱い抱擁を強行する彼女を、ノエルはほんの少しだけ苦手に思っていた。

 すると、タワーマンションの正面玄関前に黒い光沢のSUVが1台静かに停車し、クラクションを小さく鳴らして窒息の危機を救ってくれた。


「あっ、来た来た」


 ノエルを胸元から解放したお姉さんは、「じゃあね」と可愛らしく投げキッスの仕種しぐさを振り向きざまにしてから、男性が運転する車へと小走りで乗り込む。

 そしてすぐに、黒いSUVは降りしきる雪道の先へ颯爽さっそうと消えていった。


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