1.

 ある日曜の昼下がり。

 能瀬のせノエルは、チラチラ舞い散る灰雪の中を小走りで家路についていた。


 両手に持つ買い物袋のひとつからは、長葱がぴょこんと深緑色の頭をのぞかせ、『早く出して!』と文句を言うように、幼い少女の歩調に合わせて元気よく飛び跳ねる。

 家まではまだ半分の距離にもなっていないというのに、降りしきる雪はその強さを瞬く間に増していき、あまりの寒さで、吐く息が視界を霞ませるほどに広がっていた。


 昨夜のテレビの天気予報だと、お昼頃から雪が降り始め、降り止むと予想される明朝には、積雪量が観測記録を更新するかも知れない──青髭の気象予報士がそう話していたのを、ノエルはふと思い出す。


 時刻は午後2時を過ぎていたが、すでに街は雪に包まれていて、まるで四季カレンダーの12月の写真のようだ。

 もちろん、おつかいには傘を持って出掛けたのだけれど、買い出しの品々が思いのほかかさばってしまい、ノエルは傘をさせずに腕に掛けて引きずって歩いていた。

 濡羽色ぬればいろのふたつ結びに雪が積もるたび、ノエルは首をプルプルと横に振るっては落とす。

 けれども、猫のキャラクターが刺繍された毛糸のミトンの上には、溶けた雪が次々と染み込んでいき、体温をより早く奪っていってしまう。両手が塞がっているので、腕を揺さぶるだけではうまく払えなかったからだ。


 路肩では白い乗用車のタイヤにチェーンを巻き付けようと、若い男性が同じ歳くらいの女性と口論をしながら苦戦している。

 そんな様子を横目に、ノエルは健気に冷たさを堪えつつ、滑って転ばないように気をつけて雪道を急いで帰った。


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