『泣いたサンタクロース』
N(えぬ)
サンタクロースを信じてくれる人々へ
サンタクロースは冴えない顔で
「何百年と務めて来たのに……」
彼は、自分たちが回る子供たちの減少に直面していた。
それは「少子高齢化」ばかりが原因とは言い切れない。
世界は多様化して、キリスト教徒が幅を利かせる世の中ではなくなったのだ。信仰の自由。信仰自体に圧力をかける国の台頭。そして、「みだりに他人から物をもらわない」「プレゼントは、見ず知らずの髭おやじなんかにもらうよりも好きな人からもらうほうが嬉しい」という一般的道徳観の変化。それらがサンタクロースたちを直撃した。
さらに追い打ちをかけたのが「地球温暖化」だった。
雪と氷の減少。
彼らが足に使う橇は、滑りが悪いと走れないし、変化した環境はトナカイにもダメージを与えた。
リストラ
その言葉がサンタ界にも押し寄せた。
採用担当の若い天使は、慰めを顔に浮かべて、それでも譲歩は無理と言う決然とした意思を込めて、
「もういいでしょう?」といって長年勤めたサンタたちの肩をたたいた。
だが、サンタたちは見た目がジジイなだけで不老不死だ。まだぴんぴんしているのだ。
「わたしらは、まだまだ出来るよ」と眉間にしわを寄せて天使に迫ってみても、
「イメージなんですよ。若々しくしていかないと」とすげなく追い払われた。
そんな中で一部のサンタクロースが立ち上がった。
「だったら、やってやろうじゃないか!」
まず美容整形。顔のしわとたるみを取り、髭を剃り、髪を黒々と染めてスポーティでスタイリッシュな髪形にした。適度に日焼けした精悍なボディーライン。割れた腹筋。
「これで文句はないだろう?」と胸を張っていった。
これには採用担当の天使も少し言葉に詰まった。
「けれど、乗り物がね。橇とトナカイでは……」
天使がそういうと、サンタクロースがいった。
「これでどうだ?」
目の前に熱い海の波頭を超えて仲間のサンタが大挙して現れた。
「イヤァホー!これで、世界に夢を届けちゃうぜぇ!」
彼らは4頭のイルカに曳かれたジェットスキーにまたがっていた。
おわり
『泣いたサンタクロース』 N(えぬ) @enu2020
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