第6話 タブレットPC
メジエール村に朝日が昇る頃…。
すでにフレッドとアビーはベッドを抜けだして、今日の仕事を始めている。
メルが目を覚ますときには、二人とも寝室に居ない。
フレッドは酒場の周囲を掃除し、アビーは畑の世話をしている。
アビーが食べごろの野菜や使いたいハーブを摘んで『酔いどれ亭』の厨房に戻ると、フレッドとアビーは協力して食堂の仕込みを始める。
朝食の支度も、同時に進められていく。
その間、メルが何をしているかと言えば、タブレットPCを操作していた。
(はぁーん。ちょっとだけ経験値が溜まってる。裏の畑に棲みついた、弱っちい黒いのをやっつけたからだね。あーっ、花丸ポイントも増えてる)
生前の
もちろんネットには繋がらない。
以前インストールしておいたゲームも消えてしまった。
いまメルが眺めている画面には、メル自身のステータスとミッションが表示されていた。
内容は以下の通りだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【ステータス】
名前:メル
種族:ハイエルフ
年齢:四歳
職業:掃除屋さん
レベル:2
体力:10
魔力:50
知力:40
素早さ:5
攻撃力:3
防御力:3
スキル:無病息災∞、女児力レベル8、料理レベル5、精霊魔法レベル2。
特殊スキル:ヨゴレ探し、ヨゴレ剥がし、ヨゴレ落とし、ヨゴレの浄化。
加護:精霊樹の守り
バッドステータス:幼児退行、すろー。
【装備品】
頭:なし
防具:幼児服
足:大きめのサンダル
武器:なし
アクセサリー:なし
花丸ポイント:500pt
【イベント】
ミッション:厨房を穢れから守る、食料保存庫を穢れから守る、畑を穢れから守る。
現在、以上の三点を継続中です。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
メルは注意すべき項目の有無を確認した。
新しい要素は、ひとつもアンロックされていない。
グレーに表示されたタブは、何度タップしても反応が無かった。
新機能解放のカギについては、まったく見当もつかない。
取り敢えずは焦らずに、ミッションを続けるべきだろう。
(神さまなのか精霊さまなのか分かんないけど、僕を健康な体に転生させてくれた方に感謝、感謝。何たって、スキルが無病息災だよ…!嬉しすぎて、クネクネしちゃうよ。こうなれば与えられたミッションくらい、笑顔で頑張りますって…)
色々と突っ込みたい処はあるが、タブレットPCを眺めて一日の行動を決めれば、有意義な時間を過ごした
見た目は変わらなくても、数値上の成長を期待できるのだから。
(ゲーム感覚だけどね…。それにしても花丸って…。『よくできました!』のアレですか…?幼稚園でくれるやつ。あと、女児力って何だよ…?そんなの、レベル八まで育てた覚えがないよ)
メルにも言いたいことは山ほどあった。
だけど、ちゃんとミッションをこなせば、ご褒美が貰えた。
経験値と花丸ポイントだ。
そのうえ花丸ポイントを消費して、購入リストから欲しいものをゲットできる。
入手したアイテムはストレージに収納されるので、必要に応じて取りだせば良かった。
(ピザを買って試したから間違いない。五十pt消費したけれど、問題なく食べられた…。美味しかったぁー!)
食品や調味料などは安かったけれど、メルが必要とする幼児化防止の魔法装備は高価だった。
(幼児化を防ぐベレー帽かぁー。五万ptとか、当分は買えないよね…)
深い溜息を吐いて、メルはタブレットPCをデイパックにしまった。
◇◇◇◇
その頃…。
アビーは畑で首を傾げていた。
「変ねぇー。いつもなら、この季節になると葉野菜が病気に罹るのに…。今年はピンピンしてる」
毎日のように、メルが黒いモヤモヤを取り除いた成果だった。
「森の魔女さまが言ってた通り、メルのお蔭なのかな?」
病気に弱い葉野菜を調べ終えたアビーの口もとに、優しげな笑みが浮かんだ。
何しろメルは精霊の子である。
言葉だって三か月も経たないのに、かなり喋っている。
オッサンみたいな口調や、奇妙な言い回しが気になるけれど、天才かと思うほどに上達が早い。
そんなメルだから森の魔女さまが言っていたように、自分には理解できない力で畑を守ってくれたのかも知れない。
「メルちゃんは、ホントに精霊の子なんだね…」
そんな風に呟いて、アビーはメルの樹を見上げるのだった。
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