第14話

ある日の夕方、たまたまファン・カルロスとランドリーセンターの使用時間が重なった。これしか服が無くて、こんなにでかい洗濯機を使うのは心苦しいが母親の様に手で洗えないから、と愚痴をこぼしながら、本当に何枚かの服を洗うだけの洗濯機を回し始めた。干せる場所も限られているし、これがここでの最適解だと言った後、最新の洗濯機を買えば水の節約ができるのにと批判的な言論に様変わりした。最後には、大量の洗濯物を定期的に実家に持って帰り、それを全部洗い持って帰って来るスージーの行動は持続可能ではないと、いちにちも前日と同じ服を着ない彼女に矛先が向き、今度文句を言いってやると息ぶいていた。


「すごいわ。私達こんなに誕生日が近いなんて。真ん中バースデーパーティーをしましょう。」


スージーがの提案で7月6日、7月18日、7月24日の平均値、7月15日にパーティーを開催することに決定し、プレゼント交換をすることになった。


「姉さん。誕生日のプレゼントは何をあげればいいと思う?変なものは贈れないだろ?」

「晋の贈りたいものを贈ればいいと思うけど。そうね、日曜日に買い物いってみる?何かいいものが見つかるかもしれないし。」

「お願いしてもいいかな」

「もちろん。最近モールに行ってなかったから、そこに行きましょう。楽しみだわ。色々なお店が揃っているから、何かいいものが見つかるかもしれないし。」


藤岡の車を借りて姉の運転で少し町から外れた永遠と広がる駐車場に囲まれたモールに着いた。モールの中にある店の一つ一つが無意味にでかく、歩くのに疲れた。アメリカでは服が綺麗にフィットしないからと言いながら姉は久しぶりの買い物を楽しみ、僕は最初に入った店でピンクと青のマグカップを買った。


今回のイベントの食事を任されていた僕は、姉さんの閃きでカレーを作る事にした。カレーは材料を油で炒めて水を入れて野菜や肉が柔らかくなるまで煮て最後にルーを入れるだけだからと大雑把な説明を受け、素人でも出来るといわれたのが高得点だった。姉さんの気が済むまで買い物に付き合った後、その足でついでに材料を買うために近くのスーパーに寄ってもらった。藤岡とよくアジア食材を買いに行くとかで、カレーのルーはアパートにある物を提供してくれるといった。


「なんだ。こんなものでよかったのか。」


ファン・カルロスからわたされたプレゼントは多きく育ったキュウリとナスとトマトだった。彼の菜園で栽培されていたものが収穫期を迎え、それがたまたま僕達の真ん中バースデーとうまく重なったようだ。


「こんなものじゃないよ。丹精込めて育てたんだから。愛が籠ってる。」

「ススム、ファン・カルロス、私からはこれよ。気に入ってくれると嬉しいわ。」


スージーからわたされたプレゼントは彼女が以前ベビーシッターのバイトして稼いだお金で買った上下の揃ったスポーツウエアで、ファン・カルロスにも色違いの物を贈っていた。運動全般をしない僕はスポーツウエアをもっていない。ファン・カルロスは基本的に動きやすいダブダブのパンツかジーンズと襟の付いたシャツを身につけているが、運動だけを目的とした衣服を洗濯しているのを見たことがない。


「スージー。ありがとう。本当に嬉しいよ!」


大きな声をあげてハグをする為に伸ばした手を広げているファン・カルロスに、スージーも抱擁し返した。


「スージー。ありがとう。僕も嬉しいよ。」


スージーとハグをした直後、青いマグカップを受け取ったファン・カルロスは急に大声で笑いだした。


「ススム、これ買った時にマグカップに何が書いてあるか確認しなかったのか?AIの翻訳がないからって・・・これおかしすぎるよ!!」


          GOOD MORNING,

            I SEE THE

            ASSASSINS

           HAVE FAILED


スージーは少し顔を赤らめていた。無言で僕の手に戻されたピンクのマグカップ。


            I LOVE

            F♡cking you

            I mean

            I F♡cking

            LOVE you


「貴方の気持ちはよくわかったわ、ススム。」


彼女は一瞬真剣な顔を僕に向け、おどおどした僕の顔を楽しんだ後、ファン・カルロスの大声に重なる大声で笑った。


「ありがとう。すごく嬉しい。大事にする」


彼女はそう言って,再度僕の体に抱き着き、その後でピンクの告白めいたマグカップを僕から奪った。姉にルーを貰って始めて作った簡易カレーをみんなは、よくがんばった、美味しい、と残さず食べてくれた。

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