第6話
「貴方の概念獣に性別があるんですね。珍しい。どうやって分かったのですか?」
「好みが変わるんです。男の概念獣は女性が好きで、女の概念獣は男性が好きなんです。」
そう話し出した22歳の彼女は、自分は女性が好きだと言った。ややこしい。彼女は、一応医師の認定書があり、松田監察官が彼女の概念獣を担当しているが、彼女から相談を受けた松田監察官が上と相談して藤岡に依頼が下りてきた。彼女が新しい恋人を作るたびに男と女の概念獣同士がけんかする。五月蠅いから両方消してほしい。
「100%ってこと?」
「そうだ」
「彼女はそれでいいって?」
「彼女からの承諾書は得ているし、上からの承認もおりている。」
「何で僕に詳細を喋る?」
「彼女がお前と話したいそうだ。」
「それ大丈夫なの?」
「概念獣保持者同士の交流は認められている。お前は第一級危険概念獣保持者に指定されているが力の制御ができる。今までの実績も考慮されている。上は危険が少ないと判断し、許可が出た。」
「貴方は男性?それとも女性?」
扉のノブは静かに回され、扉は少しの音と共にしまった。藤岡と僕に深々としたお辞儀をし、丁寧に断りを入れてから用意されていた座席に座った。身体の動かし方や言葉選び、部屋に入るまでの一連の所作はとても女性らしいと感じた。短く切りそろえられた髪、化粧っけがなくどことなく中性な顔立ち、黒いスポーツ帽、男性物の大きめのシャツ、ぴったりとしたジーンズ、黒いバックパック。酷く目についた対照的な彼女の容姿や恰好、前に座った彼女にそう聞かずにはいられなかった。
「生まれた性別は女で、戸籍に登録されている性別も女です。心が男ってわけではありませんが、恋愛対象は女性です。」
「そうなんですね。私と話したいことがあると伺いましたが、お聞きしても?」
「特別な理由はないです。ただ、私の一部を消す人に会ってみたかったんです。」
「貴方の一部ですか?確かに、概念獣は保持者と一緒に成長すると言われていますが、最終段階に入れば、体の全てを支配されてしまいますよ。それはご存知ですよね。」
「知っています。習いますから。それでも、私と一緒にいた存在で、意見の相違やコミュニケーションは取れませんが、私の一部です。一部だったんですけど、男の概念獣は女を好きになるです。女の概念獣は男を。それって、普通ですよね。普通で特に影響がないなら、プチ整形みたいにチョコチョコって切り取ってもらえればと思いまして。そうしたら、私の中で性に対する概念の対立は起きないじゃないですか。そしたら、私は普通に女性を愛せます。」
「そうですか」
藤岡が一息ついた会話に割って入った。
「それではこちらの誓約書に署名をお願いします。」
藤岡が説明を始める前に、彼女は内容の確認もせず置かれてある一枚の紙に名前を書き、判子を押した。
「・・・それでは、説明させていただきますね。一応手順を踏みませんと、こちらとしても何かあった時、責任の所在が曖昧では困りますので。」
「はい。よろしくお願いいたします。」
「では、これから夫婦の概念獣を消す処置を施します。100%との依頼なので、100%消させていただきます。まず、100%概念獣が消えましたら、その日から5年間は検査を継続してください。これは任意ではなく義務になります。日程や場所はこちらで調整後、指定して頂いたメールまたは手紙でお伝えしますので、詳細はそちらをご確認ください。処置後、概念獣が再発すると言った現象は現在まで確認されていませんが、5年間の追跡調査をしていますので、ご協力宜しくお願い致します。5年後最後の検診を終え、概念獣の存在を確認できない場合、現在登録されています特別概念獣保持者リストから外されます。登録抹消後は、今まで保持者が受け取っていた補償や研究補助手当等、全ての受け取りができなくなります。全ての項目をご確認の上、この誓約書に署名をお願いしますと、なりますが、署名は先ほど頂きましたので省かせて頂きます。最後の確認ですが、本当に宜しいですね?」
「大丈夫です。」
「では、始めます」
「終わりました」
「早っ、もう終わったんですか?」
「もう終わりましたよ。それでは、私はこれで」
「あ、はい。ありがとうございました。」
ファン・カルロスが一度アヨーテの話をしようとした時スージーに遮られたが、僕はその後気になってその続きを昼下がりの彼の走るトレッドミルの横で聞いた。野菜とゆうか植物の花には、一つの中に雄しべと雌しべがあり送粉者によって花粉が運ばれ受粉するが、野菜の中にはアヨーテみたく雄花と雌花が別々に咲き、離れた雄花から雌花へ受粉をさせなくてはならない物があるそうだ。花は雄花も雌花も黄色で同じ形をしているらしく、上から見るだけでは見分けがつかない。雌花の茎には小さいコブのようなものがありそれをみつければ、区別がつき簡単に受粉できるそうだ。花が咲きだした頃は雄花しかなく時間が経つと雌花も咲き始める、彼の父親は手入れのいらないアヨーテを指さし、市場に持っていくトマトの選別をファン・カルロスに教えた。ププサの具にも使われるアヨーテ。母親は茹でたり、スープに入れたりと色々していたようで、虫に強く放っておいても沢山身のなるアヨーテを重宝していた、と言っていた。色々な事を知っているファン・カルロス。羨ましい。多分その様な文脈の中で使われた言葉だと思う。僕はトレッドミルのスピードを上げ、トレッドミルを降りたファン・カルロスは紙コップにウォーターサーバーからでる冷たい水を注ぎながら、生きる為に必要だったから、と言った。
「見ただけでは分からないですね」
「そうだな」
「今日は疲れたので居酒屋で一杯どうですか?奢りますよ。」
「いつの間に酒が飲めるようになった?」
「ずっと前から」
「いつからだ?」
「スージーと知り合ってからです。」
“what the hell・・・what about smoking and drags?”
“I don’t do smoking. I don’t like the smell. Only marijuana, just one time with her, with a safe environment.”
“I beg your pardon. I trusted you guys too much. I gotta file a complaint to her when I meet her next time.”
“Take it easy, it was just a one time thing.”
“Don’t drive me up to the wall, young man. I’m dead serious.”
“Oh, don’t be. It does not make any sense upsetting right now. Don’t waste your time. It was a long time ago. It was a normal social conduct there at our age, at least she told me so.”
“Anyway, why don’t we go home now. I don’t feel like going out today. I invite you to eat at my place.”
“Are you serious? Are you gonna cook or what? If you will, I am not going. I cannot eat your horrible food that you cook. You don’t cook right”
“Look, food tastes better when you eat it with your family, so endure it, Okay?”
皿の上にのっていたのは形の崩れた卵料理だけだった。
「辛うじてこれが目玉焼きだと認める。でも、目玉焼きは料理じゃないと思う」
「フライパンと火を使っている。お前はファン・カルロスが炒めた卵とトルティーヤと塩だけで夕食を終わらせていたと言っていたじゃないか」
「それは彼の国での話だよ。ここは日本だ」
「ご飯が付いてるだろ」
「まってて。今インスタントの味噌汁作るから」
「早くしろよ。卵が冷める」
お湯を入れるのも待てない、大人には成りたくない。
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