第9話 3番目の奥さんフレイと正妻ジュエ
◎フレイ視点
この前、だんなさまにお会いしたとき、ボクは少しばかりワガママを言いました。手作りのものが欲しいと言いました。
それもあって、だんなさまと一緒に、おにんぎょうを作りました。
今、そのおにんぎょうは、ふたつ一緒にボクのベルトにつなげてぶら下げています。
家でも、学問所でも、おにんぎょうのボクたちは一緒なのです。
あと、おにんぎょうを作った日に、もうひとつワガママを言いました。
再来月に学問所で催しがあるので、来てくださいとお願いしました。ボクはそこで、学問所の代表のひとりとして演武を披露するのです。ボクは意外と優秀なのです。
だんなさまはいつも持ち歩いている手帳に、予定を書き込んでくださいました。
だんなさまが見に来てくださるから、学問所をサボるのもほどほどにして真面目に演武の練習をしようと思います。
そう意気込んでいたんですが。
演武の指導をしてくれる人が、外部から来ることになりました。
この学問所は王立なので、卒業生はなんやかんやで王立の機関で働く人ばかりです。そのつながりで、王立の機関で働く人が来ました。
その人がなんと、だんなさまの正妻のジュエさんだったのです。
ボクは正直、ジュエさんが嫌いです。ジュエさんだけじゃなくて、他の奥さんたちも嫌いです。だって、ボクはだんなさまをひとりじめしたいと思っていますから。
ただ、ジュエさんは剣の演武を指導する係で、ボクの武術の演武とは別です。よかったです。
まあ、ジュエさんももちろんボクの存在に気付いていたと思います。すごく視線を感じましたから。きっとジュエさんもボクのことが嫌いなのでしょう。
そして、演武の練習の休憩時間のことです。ボクたちも、指導係の人たちも、同じスペースで水分を摂ったりなんだりしてました。その時です。
ボクたちの事情を知らない学友に言われました。
「その人形、今は外したら?」
ボクは演武の練習中でも、おにんぎょうをつけたままにしてました。
「いいんだ。これは、だんなさまが作ってくれたものだから。だんなさまの手作りなんだ」
ボクはわざと大きい声で言いました。きっと、ジュエさんにも聞こえていたことでしょう。
だんなさま、ごめんなさい。ボクはすごく意地悪な人間です。
◎旦那様視点
昨日の晩、ジュエに手紙を届けた。届けたというか、昨日泊まった奥さんの家の使用人さんに、届けてもらったんだが。
『明日は家に帰る日ですが、仕事場の先輩たちと食事に行くので晩ご飯はいりません』という内容の手紙。
ジュエの家は、夜の10時になると玄関のカギを閉め、使用人さんもみんな休む時間。だから、10時までに帰らなきゃと思っていた。
先輩たちと、大衆居酒屋的なところでワイワイと飲んだり食べたりしていた。
頭の中には、10時までに帰ろうとずっと意識してたし、間に合うように店を出たつもりだったが。
「うお…ちょうど10時か」
ジュエの屋敷に帰り着いたのが、その時間。でもまだ大丈夫だろうと思い、静かに玄関を開けようとした。
しかし、開かない。え?鍵を閉められた?
なるべく静かにゴンゴンと玄関をノックするも、何の反応も無し。
くそう。10時をほんの少し過ぎたとこだぞ。ちょっとくらい大目に見てほしい。
途方に暮れて屋敷を見上げると、二階の窓に人影。
部屋の中に明かりがついてる。あそこはジュエの部屋…!
手をブンブン振って「あけてー…」と念を飛ばす。
庭で不審な行動をする俺に気付いたのか、俺の念が届いたのか、ジュエはこっちを見た。
しかし!
ジュエはこっちを見たかと思うと、カーテンをシャッと閉めてしまった。
え?まさか?俺、今、無視された?…まさかね。
玄関が開くことを信じ、大人しく待機。
…なのに、一向に鍵を開ける音が聞こえない。悲しいけど、俺はどうやら無視されたようだ。
マジか。無関心にもほどがあるだろ。ちょっと泣きそうになるだろ。
夜も更け、なんだか肌寒くなり、いつまでもここにいることはできないと判断した。
さすがに庭で野宿はできない。
あー。誰かの家に行くしかないか。
いくら俺が『旦那様』でも、連絡なしの夜中の訪問は迷惑だろう。
でも、野宿はイヤだし…。
誰の家に行こうかな。
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