第7話 正妻ジュエと4番目の奥さんアル

今日は仕事が休み。

奥さんたちとの予定もなく、散歩に出たり自分の部屋で本を読んだりしてくつろぐ。昼寝とかもしちゃう。


そうやってぐうぐうのんびりしてたら、コンコンとノックをされてもう夜なんだと気付いた。


「ジュエ様がお帰りになりました」


それはつまり、晩ご飯の時間だということ。


テーブルにつくと食事が運ばれる。

美味しい食事だが、一切会話は無い。

もそもそ食べながら、ジュエのお父さんである、俺を助けてくれたおじさんのことを思い出す。おじさんは食事中もニコニコしてうるさいくらいに喋ってたなあ。おじさんとジュエは親子だけあって顔は似てるけど、性格は全然違うんだなあ。


「そうだ。これ、次の予定です」


来月の予定を紙を、ジュエの執事さんに渡す。

俺が帰ってくる日は、使用人さんがなんやかんやしなきゃいけないから前もって予定表を渡している。

以前、『帰らない』と言った日に帰ったことがある。その時、『食事の支度など、使用人の都合も考えろ。迷惑だ』とジュエに言われたことがある。ちなみに、『帰る』と言った日に帰らない分はどうでもいいそうだ。俺が帰って来ようが帰って来まいが夜10時過ぎたら鍵を閉めて終了らしい。


この家で、俺は結構肩身が狭い。まあ、しゃーないけど…。


食事を終えて自分の部屋に戻る。

意地悪されてるわけじゃない。部屋の掃除も、メイドさんがしてくれる。この部屋も、隣にお風呂がついてるとってもいい部屋だ。


だけどなんとなく。寂しいんだよなあ。


翌朝。

仕事が早番の俺は、食堂でひとり早く朝食をいただいていた。作り置きしてテーブルに置かれていた食事。食べるものがあるだけありがたい。今日はアルに会いに行く日だ。今夜は体力を使いそう。礼儀正しくて清廉な雰囲気だけど、夜は一番アレだからな。

と、朝っぱらからそんなこと考えてたら、食堂のドアが開いた。


「ジュエ、おはよう。早いね」


きっちりと服を着たジュエは、俺を少し見ただけでフイッと顔を逸らす。なんでい。挨拶くらいしろっての。


ジュエが席に着くと、使用人さんたちがどこからともなく現れて食事の準備が始まる。俺の作り置きされてた感の朝食とは違う…。いいけどね。


「それじゃ。行ってきます」


図書館に向かう道すがら、アルに買うお土産のこと考える。何がいいかな。



◎アル視点


仕事は好きだが、時々溜め息を吐きたいときがある。旦那様の正妻であるジュエを顔を合わせるときだ。幸いにも、普段の仕事ではあまり接点は無いが…。

今日は会議があり、ジュエと顔を合わせなければならなかった。

円卓の斜め前、ジュエはいつものように仏頂面。あれがいつもの顔。私の知っているいつもの顔。


しかし。

最近は少し違う。少し…。なんだか、睨まれている気がする。やはり、旦那様が他の妻を迎えることを認めたものの、ジュエは正妻として、私のことを快く思っていないんだろう。


まあ、どうでもいいことだ。

正妻という立場は強いけれど、旦那様の心を縛ることまではできない。旦那様が困ったときに、誰を頼るか。それが私であればいい。


仕事が終わり、屋敷へ帰る途中。馬車の中から、旦那様の姿が見えた。


「旦那様!」


馬車を停めさせて旦那様を呼び止める。


「アル、もう仕事終わったんだ」


馬車に乗り込んだ旦那様は、笑顔で私の隣に座ってくれた。


「さっき市場で、おいしそうな果物見つけたんだ」


旦那様が見せてくれたのは、以前私が好きだと言った果物だった。旦那様は覚えていてくれたんだろう。


「今日の食後にいただきましょう。ありがとうございます、旦那様」


旦那様の手に、手をそっと重ねる。すると、旦那様は更に手を重ねてくれた。

馬車の中だというのに、はしたなくも今日の夜のことを考えてしまった。

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