第15話 新たな相棒

「じゃあどんな機体がいい?」


機体を作成する前にどんなコンセプトにするかのミーティングだ。これをしないと満足のいく機体は作成できない。


「今までの機体も大好きなんだけど、今度はもっと動きが速いのがいい!」


ついこの間までの態度とは打って変わって年相応の爛漫さ全開だ。——って


「あれ以上の機動力!?」


これはほとんど装甲が無くなるし下手したらフレームも大々的に軽量化する必要がありそうだ。


「一応聞いておくけど、ほとんど装甲は無くなっちゃうよ?」

「それは困るわ。機動力を向上しつつ、装甲はあのままで。」


ちょっと無理難題にもほどがあるんじゃないか…?



 その日から機体の開発の日々が始まった。何度もシミュレーションをして構造を検討しつつ、彼女に見せてはダメ出しを食らって修正。もはや何も言わなくても何が言いたいのか分かるレベルになっていった。


「多分このデザインじゃ満足いかないだろうな。」

「複雑になるけどこのUIならいけるだろう。」


こんな感じで毎日家のラボで独り言をぶつぶつ言いながら開発していった。


「こんな感じでどうかな?」


大体形になったのでVRゴーグルをつけてもらって実際の大きさで確認してもらった。

「フンッ!あなたにしてはよくやったとは思うわ。」

———おそらくこれは最大限の賛辞なのだろう。


「じゃあ操縦のシミュレータがあるからそれをやってみて。」

手元にコントローラを渡して操縦してもらった。目線はこちらの端末から確認できるのでナビをする。

「結構機能性に振ったから操縦は複雑になってるけど大丈夫?」


「うわこれひっどいわね。人が操縦すること考えてるの?」


確かにそう思う。


「じゃあ変更し———」

「私以外ならだれも操縦できないわよこんなの。最高じゃない。私の専用機。」


 操縦しているのを見ていたのだがまさしくほれぼれする動きだった。今までの機体ではできなかったマニュアル操縦を難なくこなし、全く予想のつかない動きをした。


 その動きをできるように設計したので私は予想できたが。


「これ急いで作ってちょうだい。」

「OK。任せて。自分も作りたくてうずうずしてる。」


 部品を発注して届くまでの時間がこんなにも長く感じるのは初めてだった。届くや否やすぐにラボで組み立てて、動作の確認をした。


 急いて注文したせいで部品の寸法を間違っていたり取り付ける順番を逆にするなど普段しないミスを連発してしまった。


「そういえば学生の時の大会でハッキング受けたな...。」


 あれは確か意図的なモノだったが一応アンチハッキング対策を施した。

まさしくこれは自分の最高傑作と呼べるものだ。


 仮組をしたのち分解してフィールドに移動させた。そして組み立てを終えて初めて彼女の専用機が完成した。


「これで完成!どう?」



「最ッ高じゃない!」

目をキラキラさせてこんなにも喜んでくれるならエンジニア冥利に尽きるってものだ。周りの人たちも


「こりゃものすごく軽そうだな」

「弾一発当たれば一撃だが…当たるかな…」


「最強よこの機体!試合で傷一つつけさせないわ!」

「どうする?一回試験運転してみる?この後塗装とかしたいんだけど。」

「一回だけ動かしたい!」


 実際に動くのを見るのはやはり緊張する。やはり現実ではシミュレーションで考慮しきれない外乱というものがある。万が一予想荷重を上回ったら一撃で壊れるぐらい攻めた設計だ。ひやひやする。


「じゃあ動かすよ!」

「思う存分駆け巡って!」


 勢いよく粉塵を巻き上げて走り出した機体は想像をはるかに超えていた。自分が設計したはずなのにスピードが想像以上なのだ。


「彼女の操縦技術か。」


 手元も見てみると地面のコンディションに合わせてグリップを失わないギリギリを常に攻めていた。自分が操縦したときには怖くて攻められないところを余裕しゃくしゃくと言った顔で攻めていた。

 機体が軽量な分操縦は繊細に行わないと簡単にコントロールを失ってしまうピーキーな機体をこんなに使いこなせるものなのか!


「すごいわこの子!私の指示に的確に答えてくれる!」

「それは君の卓越した操縦技術のおかげでもあるんだ。すごかったよ。」


 私がずっと望んでいた機体の理想形がそこにはあった。

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