第12話 懐古

 そこからの日常はまるで大学時代に戻ったようだった。その日暮らしで満足していた暮らしでは十分な開発ができないことが分かった瞬間再就職先を探した。警備ロボット系の企業は昔の事件のこともあってすべて断られたが、家の近所のパン屋で雇ってもらえることになった。


 パン屋の朝は早く、天候との闘いでもある。今日の湿度などを見越して生地の配合を最適化する技術が必要となる。まあ今はその域には達せず、店長が作ったパン生地を焼いて店頭に置くぐらいのことしかできない。そして夕方になったら仕事を上がるとすぐに家に帰る。


 そしてロボットの開発を始める。ゼロからの設計で工作機械も何もそろってない状態からスタートした。最初はパソコンを使用して3Dデータを作って解析、シミュレーションを行い設計する。大学時代にはたくさん作ってたくさん失敗してが許されていたけれども大人の私はまず大学のような設備はない。そして工作機械を使うのにも金がかかる。レンタルスペースの限られた時間を有効に活用するため失敗はあまりしたくない。学生時代以上に設計について真剣に考えるようになった。


 そして毎週末にはフィールドに顔を出す。マシンが完成していなくともそこで話をしに行く。似たような人たちが多く、あの事件が起きてから全くしてこなかった機械の話ができるというだけで十分だった。いろんな人のオリジナルマシンを見ては談義を重ね、無人機開発の参考にするなど非常に創造的な毎日を送っていた。


 そんなある日、私が一から設計した機体が完成した。大学時代のロボットらしく機動力に重きを置いた軽量な装輪車だ。家で一度組み上げて、フィールドに持ち込もうと思ったのだが一つ問題があった。

 車を持っていない私はこれをフィールドにもっていく術がない。いろいろ考えた結果、フィールドのレンタルガレージを借りてフィールドに置きっぱなしにできるようにした。大まかな部品に分けてバッグやキャリーケースに収まるサイズにし、平日の合間にこつこつ持ち込んでその週の週末には完成した。



「これが私の一号機です!」

「おおぉ、こりゃ面白い機体だな。」

「大学時代の癖が出てる。一戦頼みたいね。」

「もちろんです!ぜひ対戦お願いします。」



初めての対戦は惨敗だった。初めての人は模擬弾を使うまたはレーザのみのクラスの試合しかできないのだが、レーザの方をやってみた。

試合はほとんど自分が動けずというか何をしたらいいのかが分からずいいように攻撃されてしまった。



「最初の対戦なんてそんなもんだ。ほれ落ち込むな。」

「ありがとうございます。だけどまさかあそこまでとは思ってもいなくて、」

「確かに開発はできても操縦はできないみたいな人はいるよね。」

「慣れだな慣れ。何回も対戦しとけば勝てるようになるから。」



多くの人に慰められているとき、というか操縦しているときは常に一人の男が脳裏にちらついた。


 中山一機、大学時代の俺の相棒。彼なら自分の機体をもっともっとうまく操縦して使いこなすに違いない。彼にしかない才能。


 いまさらにして彼が今何をやってどこにいるのか気になった。

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