大人になってから

第10話 別れと再会

 大学生活から5年、あの大惨事から2年。大学で無人機を研究していた経験を活かして卒業後は無人機を使用したセキュリティー会社に就職した。会社内では非常にいい扱いをしてもらい、自分と似たような人たちの中でする仕事は不満の一つもない大変充実した生活だった。


 だがあの事件が起きた。都内の無人機が何者かによってハッキングされ一度に暴走した。パトレイバーのHOSの暴走みたいに事件が前もって起きることなくいきなり発生した。


 自分が勤めていた会社が無人機の国内シェア一位だったこともあり、一番事件を起こしてしまった。事件の後解明に向けて奮闘し、セキュリティーホールを見つけて無事解決と思ったら今度は会社をクビになった。


 一番事故を起こしたロボットの開発担当者だった私の責任が問われたという形だ。おかげで今はアルバイトを転々としてその日暮らしの生活をしている。


 まだ自分が仕事を失って生活がきつくなったのはしょうがないと言える。実際に事件を防ぐことだってできたはずだ。これは完全に自分の落ち度だ。しかし私が何より許せないのは無人機の研究が民間でできなくなったことだ。


 政府は民生のロボットの暴走によって起きた被害に驚愕し、国が亡ぶとまで考えた。それだけは絶対に防ぐため無人機の研究を法律で禁止してしまった。こればっかりは耐えられない。まだ収入さえあれば趣味の範囲でも作って時間つぶしをしようと思っていたのにこれではできない。


 「全くつまらない世の中になったもんだ。」


 バイトの帰りの夜道を一人で歩いているとなんとなくいつもとは違う道を歩きたくなった。普段寄り付かないお世辞にも治安がいいとは言えない地域に行ってみようと思った。そんな奪われるような貴重品は持っていないので気を付けていけば大丈夫だろう。


 そうして落書きであふれた倉庫の近くを通るとふと耳なじみのある音が聞こえた。


「これは…モータ…?」


おそらくこれは無人機で使われる高回転ブラシレスモータではないか?でもなんでこんなところで。すると音のする方が人だかりができていた。まさかと思い近づいてみると、


そこは無人機の格闘場だった。


実弾を使用した無人機の不法格闘場。やはり技術を抑えることなんてできないんだ。ここの主催者は、参加の条件は、レギュレーションは?そう思った時点で大学生に戻ってしまっていた。


あの純粋に美しさを求め、貪欲に研究開発していたあの私の黄金時代。

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