第9話 分裂

いきなりの申し出で戸惑ってしまった。


「いきなりそんなこと言われても困ります。この場では回答できません。」

「では君は一世一代のチャンスを無駄にするというわけだ。残念だ。」



この場でしか回答することはできないのか。いくら何でも急すぎないか。

「どうなんだ。入る気はないのかね?そしたらこの話はなしということになる。」


これは後の人生を大きく覆しかねない決断だ。慎重にいこう。

「どんな機体の研究を目標にしているか、それぐらいは教えてくれますか。」

「機密があるから詳しくは言えないが、離島防衛だけでなく侵攻も可能な無人機を開発する予定だ。」

「離島侵攻時は侵攻だけ無人機に行わせる予定ですか?それとも最後の制圧まで行うのでしょうか。」

「制圧作業まで行うことができる無人機を期待している。」


「それでは私は降りさせていただきます。」


 自分は無人機と無人機の戦いは認めている。相手が力を持っているのだからこちらも同等な力をもってして対応すべきだ。

 しかし無人機と人間の戦いは認めていない。一方的な戦闘はフェアではないと考えているからだ。離島侵攻では兵士だけでなく民間人もいる可能性もある。そんな研究には手を貸せない。


「ではエンジニアの君は降りるでいいんだな?ではパイロットの君はどうなんだ。」


「喜んで研究します。」

大体予想はついていた。あいつは研究の内容なんかよりも自分が最新の無人機に乗れて操縦できればそれで十分なんだ。そうと分かっていてもやはり実際に行動させると驚いた。


「ではパイロットの君はついてきなさい。エンジニアの君はこの件は他言無用だ。くれぐれもよろしく頼む。」


 その後のことは特に覚えていない。顧問は先に体調不良で早退したことにして事を収めてしまった。結局大学もグルだったわけだ。


 大会が終わった後はずっと家にいた。特例措置で研究に没頭できるように授業の出席日数が少なかったので単位は取り終わっていたし、正直研究所にも顔を出す気にもならなかった。

 適当に家で時間をつぶして前に思いついたシステムの実装をやってみたり、小さなロボットを家のプリンタで製作したりしていた。


 就職先は大会の成績もあってすぐに決まった。もうすべて信じられなくなってしまった。自分ではそこまでショックを受けたつもりはなくても効いたらしい。それからはあまり人のことを信用できなくなってしまった。


 そして就職して社会人になり、淡々と日々を過ごして大学時代の研究とは無縁な生活を送った。


送っていた。

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