第2話 演習
作業場とうってかわってこっちは静かな空気が満ちていた。手にじっとりと汗が滲んでいる自分に気がつき苦笑する。超人的な存在を相手にするのだからしょうがない。神社のような雰囲気がある。そのまま格納庫のエレベータコンソールにつく。自分たちの機体を選択して自分のアドレスでアクセスする。
「タカハシセイさん。認証しました。これよりゲートに移動します。」
静かな機械音がした後モータがうなりを上げ、エレベータが動き出す。地下から自分たちの機体が静かにターンテーブルに乗って姿を現す。つくづく美しい。武装がなまめかしく明かりを反射し、対照的に足回りは泥汚れなどでマットに力強く感じる。
「いい機体だなあ。」
そんな独り言も静寂に吸われていく。
「ゲートを開きます。今日の天候は快晴、風量五、風向きは南南東です。」
天候の情報も記憶しながらメニューを考える。ほとんどあいつの思いつきにつぶされるが一応だ。ゲートからあふれた朝日で一瞬前が見えなくなる。が、すぐに迷彩塗装の機体が見えるようになった。人が1人横になった程度の全長をもつ無人装甲車だ。
「さあ行こうか。」
隣に彼が塀に座りながらプロポを持ちながら足をゆらゆらさせていた。
「準備まだ~」
「もう少し。違和感あったのって武装のあたりだよな。」
ケーブルをまとめながら前回の演習を思い出す。
「そうそう。曲がったときに姿勢が傾きすぎていたんだよね。」
「だったらサスペンション固くしてみるかな…」
この機体は上部に機関砲を乗せることのできる軽装甲車だ。それだけなら他のチームが作っているのと大差がない。この機体の特徴はなんといってもその足回りの構造にある。無人装甲車は基本、2000年代の装甲車と大差ない構造を持っている。しかしこれでは無人にした利点が生かしきれないというのが自分たちの意見だ。その考えを結晶化したのがこの機体。無人機は搭乗者の心配がないため有人機では行えなかった機動が可能になる。さらに機体上部に重りがないためさらに機敏に動ける。それらの利点を最大限に利用するためこの初号機は装輪に加えて脚がついている。脚の先端にタイヤがついており、様々な地形に対応できるポテンシャルを持っている。
準備が完了していざ演習。パイロットはFPV(一人称視点)ゴーグルを装着してプロポを持つ。自分は監視用のモニターを展開して機体の状態をモニターする。ゴーグルをつけると自分の視界がすべてカメラに移るため自分では機体の状態を確認できないからだ。
「今日の演習メニューは?」
「今日は主に足回りの検証かな。」
「りょうか~い。機関砲旋回確認。」
彼の首の動きに連動して機関砲が旋回する。
「砲塔旋回確認よし。」
「ステアリング確認」
彼のプロポに合わせて前輪後輪が左右に動く。
「ステアリング確認よし。」
「試運転に入る。周囲確認。」
「周囲確認よし。試運転はじめ。」
試運転にしては飛ばしすぎな機体は砂埃を盛大に巻き上げた。
「ばかやろう目に入ったじゃねえか。」
「ゴーグルしてるから分からない~。」
こいつのすねを思いっきり蹴ってやろうかと思う。そんな感情も走っている機体を見ていると忘れてしまいそうだ。だが、そんな素晴らしい効果はこの機体にはない。
「機関銃の旋回のテスト開始。」
「ラジャー。スラローム射撃を開始。」
まっすぐに進んでいた機体が大きく傾き右に旋回する。そのまま180度回頭して逆方向に走っている。機関銃が左を向き、目標を照準する。
「リバース、ナウ」
合図と同時に左に曲がりながら機関砲が目標をとらえ続ける。すぐに機関砲の反動が来る。
「弾道が見えないからやりずらいな…」
「目標、命中確認。実弾の方が難しく思うがな。」
「はたから見るとそうだよね。何なら演習場全体にスモーク炊いてほしいな。」
「そんなことしたらスモークは流れるわレーザは減衰するわでいいことないぞ。」
「じゃあ弾の軌道がビジョンに表示されるようにしてよ。ほとんどの競技会はレーザ使用なんだからさ。」
「できなくはないがそれは今度のCUMAの後だな。あれは実弾使用だから。」
この装甲車には実弾の使用も前提に設計している。これは自分たちが特殊なわけではなく世間一般的にそうなのだ。 現代の陸上戦はもうすでに機械に置き換わっている。もう人間が全線で命を張る必要はないのだ。ただ、ロボットに置き換わっているだけで戦争がなくなっているわけではない。技術が進歩したからといって戦争がなくなると思っているのは昔の人間ぐらいだ。
「状況終了。演習終わり。」
ドリフトしながら目の前で機体が止まる。最後まで力が抜けずに制御できている。上々だ。
「実弾の動作確認はできてるの?」
「そこらへんの仕様は変更してないから少し反動の値をいじればすぐに対応できると思う。」
「じゃあ今日はそれをやろうか。」
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