ブルアカはいいぞ
◇2022/1/14(金) 晴れ時々曇り◇
冬北高校の放課後。今日もこたつ部、だらだらと活動中。
あたたかい掘りごたつに入り、本日四個目のみかんを剥いていると、対面に座っている後輩のぬくもちゃんが「ンッフ」と笑い声を漏らした。
俺はみかんの果肉をもぐもぐしながら、ぬくもちゃんを眺める。
彼女はスマホを横にして、画面を見ながら何やら操作を繰り返している。
みかんを嚥下し、俺は訊ねた。
「それ何?」
「ブルアカです」
「ブルアカ?」
ぬくもちゃんがこたつ机の上にスマホを置き、画面をこちら側に向けてくれる。
そこには、何やらアニメの美少女キャラクターの笑顔が映っている。
「ブルーアーカイブ。スマホゲーです。ジャンルはRPG。女の子たちが銃を持って戦います」
「聞いたことはあったな。ミリタリー系なの?」
「あー。要素はあります。でも私はミリタリーに興味ないけど楽しめてます。興味でいうなら、ただ単に可愛い女の子たちに興味があったので始めましたし、それで十分楽しいです、フュフッ」
「キモオタ出てるよ」
「いい女たちが揃ってるんですよ……私の推し、見ますか?」
スマホを操作し、ぬくもちゃんは『生徒一覧』の画面を見せてくる。
「生徒ってことは、学園ものなんだ」
「そです。プレイヤーは『先生』となって生徒たちを導きます」
「可愛い子ばっかだな」
「そうなんですよ~。中でも私の最推しが……この子!」
ぬくもちゃんの細指が画面をタップし、表示されたのは……犬耳?が頭に生えていて、黒髪で、セーラー服と着物を合体させたようなデザインの制服を着た少女だった。表情が『元気溌剌!』って感じで可愛い。でもよく見るとマシンガンみたいなの持ってる……。
「イズナちゃんっていうんです。忍者っ娘です。声を当ててる声優は阿澄佳奈さん」
「忍者。銃を使う忍者……」
「すっごく元気で表情も豊かで、先生のことを『
「ほうほう」
「この子はとにかく『忍者』という存在に憧れていて、『最高の忍者になる!』という夢に一直線な子なんです。でも、突飛すぎるイズナの夢に理解を示す人はいませんでした。そんなところに、先生が現れたのです」
「唯一の理解者的な?」
「そうなんです! イズナちゃんは先生が大好きになって、それはもう、フュヘッ、直球で『大好きな主殿』って言ってくれるくらいになって……そうだ、メモリアルロビー見せますね。あっメモリアルロビーっていうのは……まあ見た方が早いですね。はいっ」
見せられた画面は、一枚のイラストにアニメのような動きを加えた、いわゆる『Live 2D』の映像だった。イズナさんが体育座りをしてこちらを上目遣いで見つめている。あ、狐のモフモフな尻尾が生えてる……犬耳じゃなく狐耳だったか……。
「可愛いな。これ舟に乗ってんの?」
「はい、小舟にふたりっきりというシチュエーションです。タップすると喋ってくれるんですよ。えい」
イズナさんが『主殿、主殿!』と呼びかけてきた。
ぬくもちゃんは「は~~~~~~~~」と声を出した。
「どうした?」
「は? 好きすぎて死にかけただけですが?」
「キレないで」
「で、またタップするとセリフの続きが聴けます」
イズナさんが『えへっ、えへへへっ……』とはにかむように笑った。
ぬくもちゃんも「んふ、んふふへへ……」と連動した。
そしてまたタップする。
イズナさんが『こんなにも楽しいのは、やはり……大好きな主殿と一緒だから、でしょうか……』とやや恥じらいながら言った。
ぬくもちゃんは自分のブレザーの胸もとをギュッと掴みながら「くぅっ……ふ……」と唸って何かに耐えている。
「大丈夫か?」
「結婚しよう、イズナ……」
「大丈夫じゃない」
正直、このイズナって子めちゃめちゃ俺の好みっぽいんだが、俺が『うおお可愛いい!』ってなるよりも前にぬくもちゃんが『ぬうおおおおおおンギャワイイイイ!!!!!!!!ハァハァハァハァハァハァハァ』ってなってるので、温度差で冷静になってしまうな……。
だけどぬくもちゃんが何かに夢中になってるのを見るのは楽しい。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……、ふぅ……。失礼しました……。……その、一応布教のつもりなんですけど、成功してます……?」
「いまインストールしてる」
「早っ!? あ、ありがとうございます……!」
ハマれるかはわからないが、こういうのは気軽に始めてみるのがいい。新しいことはどんどんやっていきたいな。
俺はとりあえず導入のストーリーとチュートリアルを経て、最初の十連ガチャを引いてみた。
なんだか気弱そうなキャラを引く。ハルカとかいう女子生徒だ。ボイスも弱々しくて、なんだか守ってあげたくなる。
「へえ、このハルカって子……」
「あっ、このハルカちゃんは……」
「すげー可愛いな」「ちょっと私っぽいですよね」
声が重なった。
「…………」
「…………」
「……よし。この子を推そう痛っ蹴られた! 何で!?」
「ハルカちゃんは気弱すぎて何か失敗すると『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい』って連呼しながら暴走しだすやばい子なので私とは似ても似つきません。可愛いことは事実なので勝手に推せばいいのではないでしょうか」
「あっレアな子引いた」
「聞いてます!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます