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表参道のカフェにいるには少しおばさんかも知れないと思いながら、
「うちの旦那がね、私に隠し事をしてたのよ。光恵、何か分かる?」
「何だろう。やっぱり、浮気?」
「いきなりど真ん中行くわね。でも違うの。さぁ、何でしょう?」
裕美の目玉がギョロギョロしてけん玉でフリケンでブッ刺したいような動き。こんな裕美の顔も目も光恵は見たことがなかったし、明らかに優位に立った者の顔過ぎて、気持ちが悪い。
「えー、分かんないよ」
「当ててみてよ」
「じゃあ、整形だった?」
「整形してあの顔じゃ手術は大失敗よ」
何それ! と光恵は大笑いして、その間だけ裕美の顔もいつもの感じになる。でもまたすぐに、形状記憶のゴムみたいに元に戻る。次のゲスを言わなくてはならない。
「隠し子?」
「ブッブー」
「ギャンブルやってた?」
「あ、近い」
「近いの?」
にひひ、と裕美が笑う。光恵はじっと答えを待つ。自分の何割が本当にこの話題に興味があるのかを数えながら、一割、二割。三割には満たないわね。でも表面上は好奇心の塊になった顔を維持する。それは女性社会で生きて来たなら誰だって習得していなければならない技術だ。下らない。
「何と、宝くじで大当たりしてたのよ」
億? ポンと口から出そうになって堪える。興味が十割になっている。
「それって、いくらくらい?」
「それは言えないわよ、高橋さんの奥さん」
「えー、ずるい。
「そうよ。当然の権利じゃない」
「うちの旦那もこっそりやってるかも知れないわ」
「そうよ、訊き出さないと、損をするのはこっちよ。これが機会よ、是非訊いたらいいわ」
その日の夜には踏ん切りがつかなくて、悶々としながら眠って、朝ごはんを作っている間に覚悟が結晶化したから、玄関で夫を呼び止める。
「ねえ、あなた」
「何?」
「私に何か隠し事してない?」
彼は何もないと言って背広を広げて見せた。彼が自分に隠し事をすることは、やはりないのだ、宝くじもやってない、そう思い直して、光恵は居間に戻った。
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