「でも、博士。僕は猫ちゃんを台の真ん中に置きましたが、さっきは真ん中から少しずれてたような……」

「生き物なんじゃ、少しくらい動くじゃろう」

「そうか、そうですよね」

 ――ん? 何かが引っかかったけど、何かは分からなかった。

「では、いよいよ人類だな」

「そうですね。人選はどうしましょうかね」

「じゃあ、高橋くん、乗りたまえ」

「はい?」

「だから台に乗りたまえ。バーには触れるなよ」

「僕が乗るんですか? メイン設計者の博士が自ら試された方がよいのでは?」

「組み立てたのはほとんどキミじゃないか。仕上がりを自分の身で感じたいじゃろう。大体老骨のわしにそんな危険なことをやらせるつもりなのか?」

 あ~あ、危険って云っちゃったよ、お祖父様。っていうか、本人でも信用してない危険なことにヨハネスを使うなんて。明日のお弁当はキャットフードにしようかしら。

「や、やっぱり危険なんじゃないですか」高橋さんもそこに気付いたらしい。当たり前か。

「何を云う。キミはわしの理論と自分の組立に自信がないのか」自らを棚に上げて博士が追い込んでいく。「世界、いや人類初の栄誉をキミに譲ろうというのじゃぞ」

「そんな大変な名誉は、理論を完成させて設計までした博士にこそ捧げられるべきです」

 取っ組み合いでも始めかねなかった二人の動きがピタリと止まった。まるで<世界ザ・ワールド>が発動したみたいだ。あ、もちろん、スタンドの話よ。

「人類初の栄誉かぁ……」

「なるほど、大変な名誉であり、賞賛に値するのは間違いないな」

 あたしはこの二人とは付き合いが長い。高橋さんと初めて会ってから6年は超えるし、博士ことおじいちゃんとは生まれてからずっとの付き合いだ。だからあたしには、今二人が考えていることが手に取るように分かる。

 おじいちゃんは、おそらくタイムマシンを開発しただけではなく、人類初の時間旅行者として有名になって今まで異端学者として馬鹿にしてきた他の学者を見返し、さらに講演会の依頼が殺到するだろうから、その講演料で研究所を大きくしてやろうと考えているに違いない。

「わしを追放した学会の莫迦どもめ、吠え面をかくがいいわ!」

 一方、高橋さんは、果敢にも史上初の時間旅行に身を捧げた立派な人として賞賛を浴び、テレビ番組に出演したり、パーティーに出席したりして女性から賛嘆のまなざしを受けようと考えている。最近何かにつけて、彼女欲しいとか云ってるし。

「これでDTを卒業だ!」

 DTって何のことだか分からないけど、なんとなく女子中学生がツッコんではいけないような気がするので、スルーしておこう。


 

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