#A

 2024年9月30日月曜日、スクエアタワー最上階にて


 目覚めると、妙にふわふわした感覚がした。

 身体がとっても軽い。

 それなのに思うように身体が動かない。

 っていうか、なんであづさ、生きてるのかな……



 体を起こすと、一番に視界に飛び込んできたのは正座して泣いているお姉ちゃんの姿だった。


「お姉ちゃん、やっほー☆彡」


 明るく声を掛けてみたけど、お姉ちゃんの目から涙が止まる様子はない。



 お姉ちゃんがこんなに泣くことなんて、今までなかった。

 あづさが知ってるお姉ちゃんは、負けず嫌いで、強がりで、でもほんとはとっても優しい人なんだ。

 お姉ちゃんは、あづさが困っていると、いっつも真っ先に手を差し伸べてくれる。

 だから、今回はあづさがお姉ちゃんを助けたいって思った。


「お姉ちゃん、どうしたの? 何か悩み事かなぁ」


 お姉ちゃんはあづさの言葉には全然反応してくれなくて、はらはらと涙をこぼし続ける。


「お姉ちゃん、泣かないで。お姉ちゃんは笑ってるのが一番かわいいんだよ。だから泣いちゃだめだよ。あづさはなんでも相談に乗るから、ね?」


 お姉ちゃんに駆け寄って、頭をなでようとした。

 でも、いくらお姉ちゃんに触れても、あづさには、何かに触った、っていう感覚がなかった。


「……ごめんね……あずさ……ごめんね」


 お姉ちゃんが泣きながらそう呟いているのが聞こえて。


「えっ、どうしてあやま――」


 ある考えがよぎってしまって。

 あづさが寝ていた方をおそるおそる振り返る。

 そこにあったのは――


 お仏壇。


 それを見て悟った。



 やっぱり、あづさは、この前、死んだ、みたい。




 死んだのになんでこんなに意識がしっかりしてるんだろう。

 いくら考えても分からなかった。

 でもきっと、神様は、あづさにはまだ何かここでやるべきことがあるって教えてくれてるんだよね。

 いつまであづさの意識が生きていられるのか分からないけど、やるべきことを探さなきゃだね。




 お姉ちゃんが自分の部屋に戻って少ししたら、今度はしゅんちゃんが来た。


「うふふっ……」


 しゅんちゃんはメガネをかけていた。

 この前、あづさが誕生日に買ったやつだ。

 片方が四角い縁で、もう片方が丸縁の、だいぶおかしい形のメガネを選んだのには、実は理由がある。

 でもそれは、心の中に閉まっておく。

 それはたぶん、あづさが言っちゃいけないことだと思うから。


 しゅんちゃんがそんな変なメガネをかけている姿がおかしくて、つい笑ってしまう。

 同時に、涙が出るほどうれしかった。


 しゅんちゃんが急に顔を上げた。

 そしてあづさの方を見て、驚いた顔がだんだんと笑顔になる。


「あずさ……あずさっ、お前、生きてたんだな!」

「え……ええっ⁈」


 驚きが思わず口に出てしまった。

 しゅんちゃんには、あづさが見えてるの、かな……


 しゅんちゃんがあづさを抱きしめてくれる。

 その感覚があった。

 しゅんちゃんに触れている感覚が。

 なんでだろう。


「ね、ねえ……しゅんちゃん?」

「なんだ?」


 やっぱり聞こえてるみたい。


「まさか、しゅんちゃん、死んじゃって、ない、よね……?」

「お前な……そんなわけないだろ。俺はぴんぴんしてるぞ。それに、俺は『お前の手を離さない』って、前に言っただろう? お前を置いて、俺はどこかに行ったりなんてしない!」

「そう…だよね。ごめんね、変なこと言って。えっへへー」


 死んだはずのあづさが見えるってことは、しゅんちゃんも死んじゃったんじゃないかって思った。

 良かった。勘違いで。



 ここで幽霊あづさ二つ目の疑問。

 どうしてしゅんちゃんは、あづさのこと見えてるのかな?



 でもしゅんちゃんからあづさが見えてるなら、しゅんちゃんのことは、助けられるかもしれない。

 いっぱい迷惑かけてきた分、これからは助けたい。


 あづさの…私の大好きな人を、助けたい。


 それが、ここにまだあづさの使命、な気がする。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る