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2025年9月26日金曜日、武蔵小杉駅前
「……疲れた」
「ごめん。無理させちゃった?」
「いや、そんなこともないけどやっぱり長時間使うのは疲れる」
「そういえば、包帯しなくて大丈夫なの?」
「うん、なんとか。なんかこの目との付き合い方を覚えた」
「と、言いますと?」
「普通にものを見るときと一緒。注意して視なければ脳まで情報はいかない。だからその分、負担は少なくて済む」
「なるほど」
「でもまあ慣れないよね、いつまで経っても。過去を視るってのは」
「それについては自業自得っしょ。過去が視える目、入れたいって言ったの自分なわけだし」
「それはそう。でも目的は達成できなかったし、もう後悔しかないよ……」
「それも自業自得。はい着いた。あそこの階段上がれば東横線だから」
「ん。案内ありがと。それで、訊いてこないの?」
「…………」
「あんたの目的、なんだったっけ?」
「……今になって、他人のことを知るのがちょっと怖くなってきた」
「ふうん。まあ分からなくもないけど。じゃ、やめとく?」
「……いや、教えてください」
「分かった。結論から先に言うと、きみが危惧してた通りになってる」
「はあ、やっぱそうか。そりゃあそうですよね」
「うん。まあけっこうなショック受けたっぽいよ。私、あんなの視たの三人目」
「ちなみに一人目は?」
「きみ」
「二人目は?」
「私」
「あそう」
「で、どうすんの?」
「うーん、どうすればいいんだろ」
「これについては正解なんてないよ。きみがやりたいようにやれば?」
「でも、もしそれで誰かが傷つくことがあったら――」
「さっき彼に言ったことと重なるけど、なんの犠牲もなしにこの状況を変えられるなんて思わない方が良いよ」
「それは分かってる」
「ならよし。あと、もう一つ忠告」
「ん? 何?」
「猫耳の子には気を付けて」
「え? 何ゆえ?」
「まあ詳しいことは言わないでおくけど。きみがほんとに友だちを守りたいんだったら、あの子のことはちゃんと見ておかないとだめだよ」
「のんちゃんにも、何か……?」
「あんまはっきりとは視えなかったけどね。ほっといたらたぶん、あの子近いうちに壊れちゃう。そのくらい追い詰められてると思う」
「……分かった。気にしとく」
「んじゃ、私は行くわ」
「あ、ちょっと待って。相談料、渡さないと」
「いらんいらん。別に私、今日カウンセラーとしてここに来たつもりないし。それにきみ、明日誕生日でしょ? だからこれがプレゼントってことで」
「プレゼントはちゃんと別で欲しかった」
「そう言うと思ってました。ほら」
「え⁈ まじで? いいの?」
「いいからさっさと受け取りなさいよ」
「これ欲しかったんだー。ありがとうございます」
「どういたしまして。それじゃあ、まあいろいろあると思うけど、がんばって」
「うん。急に呼び出してごめん。そっちも、無理はしないようにね、ほんとに」
「うん、ありがと。そんじゃね」
「じゃあ、また」
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