#14

「岸井七羽です。よろしく」


 彼女は笑顔で自己紹介する。


「小杉あずさです。あづさって、下の名前で呼んでね☆彡」


 あずさも彼女に笑顔を向けた。


「ところで……ななにゃんは何年生なのかニャ?」


 のんのんが質問すると、岸井七羽は少し困ったような顔をした。

 隣ではエスがなぜか腹を抱えて笑い出す。


「あっはっはっはっは! のんのんどの、ナイスでござる。そんでななにゃん、にゃん年生にゃのでござるか?」

「あんたは黙っといて。……んとー、どこからどう突っ込めばいいのやら……。とりあえず、猫耳のあなた、名乗ってもらえない?」


 岸井七羽はそう言いながら右目にかかっていた前髪を振り払う。

 そのしぐさがなんとも子供っぽかった。

 しかし彼女の右目が初めて見えてぎょっとした。

 その色はアニメのキャラクターでもびっくりの、ぞっとするくらいの蒼だった。

 そのことに気づき、エス以外の面々は言葉を失っている。


「……すごいでしょ、この目。オッドアイってやつだね」


 そんな空気を察してか、岸井七羽は自ら言い出した。

 そして再びのんのんへと顔を向ける。


「それであなた、お名前は?」

「のんのんニャ! 何を隠そうのんのんは、この武蔵小杉に舞い降りたプリンセス! その事実を隠すためにここでバイトしてるのニャン」

「お、おう……」

「それでななにゃん、歳はいくつニャ?」

「えっと……あなたに訊きたいことは山ほどあるけどまずは質問に答えるわ」


 そう言って彼女は財布から何かカードのようなものを取り出した。

 それを机の上に置く。

 どうやら名刺みたいだ。


「どうせ言っても誰も信じちゃくれないから、証拠から先に提示する。ほい、ここ見て」


 彼女は名刺に書かれた数字を指さす。

 ”2002/7/8”

 この数字の意味を悟り、絶句した。


「2002年7月8日生まれ。つまりあなた方よりも年上。こう見えても立派な成人女性よ」

「えーーーーっ!!」

「えーーーーっ!!」

「えーーーーっ!!」


 俺とあずさとのんのんは揃って大声を上げてしまった。



 岸井七羽の外見はどう見ても小学生にしか見えない。自称、身長152センチのあずさよりも背の低いのんのんよりもさらに華奢だ。

 ていうか、なんで俺の周りにはこんなロリッ娘しかいねえんだよ。



 他の客がびっくりしてこちらを見ている。

 愛想笑いを浮かべて頭を下げた。




「楽しそうね、あなたたち」


 そう言いながらこちらにオーナーのおばさんが向かってくる。

 どうやら後から来た二人の分の水を持ってきたようだ。

 それぞれそれぞれコップを目の前に置かれ、軽く会釈をする。


「水を差しちゃうようで悪いんだけど、のん、お客さん来てるわよ」


 のんのんの顔が一瞬強張る。

 しかしその表情はすぐに笑顔に戻った。


「見ての通り、のんのんは今、接客中ニャ! そちらのお客様の接客は引き受けてくれないかニャ?」

「それがそうもいかないのよ。そのお客さんたちはのんに用事があって来たらしいの」

「んんー……やっぱり人気者はつらいニャ。でもそういうことなら分かったニャ! すぐにうかがうニャ。それではみんな、ごゆっくり」


 小走りで店の奥に戻っていく彼女の背中をなんとなく見続けた。




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