#13
2025年9月26日金曜日、『フリーダム』にて
午後5時前。
『フリーダム』のドアを開けた。
「いらっしゃいませ! 空いてるお席どぞだニャ!」
今日も元気な声が響いている。
本当にここはいつも変わらないな。
去年、俺がここに通い始めるようになってから何も。
いつも通り窓際の席に座っていると、のんのんが水を持ってきてくれた。
「今日は一人なのかニャ?」
「いや、あずさが今、トイレに行っている。それにもうすぐエスとヤツの知り合いが来る」
エスとは一旦別れ、5時にまた『フリーダム』で待ち合わせる手はずになっていた。
「ふうん、なるほどニャ。……今日もまた秘密の会議かニャ?」
のんのんが俺に顔を寄せ、小声で訊いてきた。
端正な顔立ちがいつもよりもはっきりと見え、少しどぎまぎしてしまう。
「ひ、秘密の会議とは、なんのこと、だ?」
「とぼけても無駄ニャ。いつもこの席で兄者とエスにゃんで――」
「あれは会議ではない。俺の計画にヤツがいちゃもんつけてくるだけだ」
「そうなのかニャ? でも、楽しそうニャから混ぜてほしいニャ~って、いつも思ってるニャ」
「ならば次からはのんのんどのも参加したらいいでござるよ」
「あっ、エスにゃん! いらっしゃいませだニャン」
「のんのんどのも、毎日ご苦労でござる。しゅんぺーどの、隣、空いてるでござるか?」
「いや、あずさが隣に来るはずだ」
「んじゃ、拙者はこっちに、と」
エスが俺の向かいに座る。
その後、30秒もしないうちにあずさが戻ってきた。
「あっ、エスくん、やっほー☆彡 ……あれ? お友だちは?」
「そうだぞエス。お前、知り合いを迎えに行ったのではなかったのか?」
「ん? 行ったでござるよ?」
彼はそう言っているが、彼の周りに人影はない。
「じゃあどこにいるんだよ」
「あそこ」
エスは店の入り口を指さす。
そこには、オーナーのおばさんに絡まれている女の子の姿があった。
…………。
年齢は中学生、といったところか。
「多分、拙者と一緒にここに入ってきたから妹かなんかに間違われたのでござろう」
「え? あの子、妹さんじゃないのかニャ?」
「違うでござるよ」
「ももも、もしかして! あの子はエスにゃんの彼女⁈ 兄者兄者、これは罠ニャ。エスにゃんがついに兄者を裏切り、そしてなおかつ自分がリア充であることを自慢し、兄者を心理的に追い詰めるつもりニャ~。そしてエスにゃんがこの国の王に――」
「エスくんがロリコンさんだなんて知らなかったよー」
あずさとのんのんが口々にはやし立てる。
エスは否定しているが彼女たちの挑発は止まる気配がない。
そうこうしているうちに女の子がこちらの席に来た。
そして不思議そうに俺らを見渡す。
「ん? これはなんの騒ぎ?」
「遅い! 遅いでござるななはどの! この状況をどうにかっ!」
「今北産業」
「
……なんか初めてござる口調が崩れた場面を見た気がするぞ?
しかし、そんなてんぱってるエスをよそに、その子は冷静だ。
「分からんわ。三行で説明、はいどうぞ」
「拙者! 貴殿! カップル!」
「ああ、把握」
女の子はエスの隣に腰掛ける。
「はいはいみなさん、一応説明しておくと、私は断じてこんな自分勝手野郎の彼女ではないので。分かりました? 断じて、だから」
「そうでござるよ。この人、他に男の人いるし。……まあここまで否定されると拙者、さすがに傷つくでござるが」
「そうなのー? あづさ、てっきり付き合ってると思っちゃったよー、えっへへー」
「ニャハハ、早とちりでごめんなさいだニャ」
女の子は謝罪する二人に笑顔を返した。
ふう、やっと俺が話せるタイミングができた。
「それであなたがエスが俺に会わせようとしていた人で間違いないか?」
女の子はエスに目線を送る。
とはいっても、右目は髪で隠れているのだが。
「そうでござる。こちらの方が今日、しゅんぺーどのに会ってほしかった人でござる」
俺は頷く。そして自己紹介をする。
「俺は佐田峻平。エスとは大学の同級生だ」
「よく話で聞いてる。面白い人だって」
面白い?
俺のどこが?
エスに訝しげな視線を送ったが、彼はそれに気づかなかったのか、反応を示さない。
仕方なく彼女との会話を再開した。
「あなたの名前は?」
「岸井七羽です。よろしく」
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