#8
のぞみの話を聞き、大体の事情は知ることができた。
一言で言ってしまうと、いじめられていたのぞみをあずさが庇い、代わりにあずさが矢面に立たされてしまったということだ。
「ごめんなさい、ぜんぶ私のせいだ……」
のぞみが頭を下げてくる。
「よせよ」
「いや、謝らせてください」
のぞみは必死に謝ってきているが、どう考えても彼女のせいではないように、少なくとも俺には思えた。
だからそう言った。
「俺はお前に何を謝られればいいんだ。お前だって被害者だろ。それに、お前には俺が謝らないといけない」
「えっ……どうして?」
のぞみが顔を上げて、俺の顔を不思議そうにのぞき込んできた。
今度は俺が頭を下げる番だ。
「あずさがお前にひどいことを言ってしまった。すまない」
「え……えっ、ちょっ、ちょっと⁈ 何してるんですか佐田さん、顔を上げてください!」
促されて俺は顔を上げた。
のぞみは困り果てた表情にかろうじて笑顔を貼りつけつつ言った。
「佐田さん……なに保護者気取ってるんですか?」
「『保護者気取ってる』とはなんだ? 俺にとってあずさは妹! ゆえに、保護すべき人間だ。それになんだ? 『佐田さん』だと? いつも言っているだろう、俺のことは『兄者』と呼べ!」
「はいはい、そうでしたね」
のぞみも精神的ダメージは受けているはずだ。元気づけてやらないと。
そう思って俺は、いつものように訳の分からない設定を会話に持ち込んだ。
この口調は俺にとって、何気ない幸せを象徴するものだから。
辛いことなんて何もない日常を、象徴するものだから。
ミルクティーを一口飲むと、のぞみが訊いてきた。
「私は……どうすればいいんでしょう?」
「そっとしといてやってくれ」
「……何もするな、と……?」
「そういう訳ではない。フッフッフ……安心しろ、のぞみ。俺の頭の中では既に、この状況を打開する作戦は完成している!」
「……?」
訝しげに俺を見つめてくるのぞみに向かって、俺は宣言した。
「お前に遂行してもらう作戦は名付けてっ! ”上皇作戦”だ!」
「ふぇ?」
「この令和時代の上皇様は俺ら国民のことを非常に暖かく見守っていらっしゃるだろう。お前にはそんな上皇様のごとく、のぞみの様子を見守っていてほしいのだ。無論、お前自身の生活には支障のない範囲で構わない」
「え、でも、私が上皇様のようにだなんて、おこがましいにもほどがある気が」
「気にするな。もともと作戦名は”大御所作戦”にする予定だったのだが、歴史に登場する大御所は裏で権力を握っていて全く暖かく見守ってなんていなかったからな」
「……なんか……上皇様に失礼じゃないですか? いろいろ。それにそれじゃあ、なんにも根本的解決になってないですよ」
「こちらはこちらで行動する。安心して、自分の任務に集中するがいい」
のぞみは渋々といった感じながらも、頷いてくれた。
なんとかして、あずさを助けてやらないといけない。
どこかへ行ってしまわないように、
もうその手を離さないって、
俺は誓ったんだ。
誓ったんだ。
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