#6
2024年9月21日土曜日、『フリーダム』にて
俺が『フリーダム』に着くと、既に入り口の前には知った姿があった。
「待たせたな、のぞみ」
俺は手を上げる。
「あ、佐田さん。すみません、せっかくの休日を」
「おいおい、どこかのサラリーマンにご機嫌伺いするときみたいな挨拶はよせ。早く入るぞ」
店内には涼しい空気が充満していた。
9月もあと1週間くらいだというのに、外はクソ熱くて歩いているだけで溶けてしまいそうだったから助かった。
「いらっしゃいませー」
そう言いながら出てきたのは、ここのオーナーのおばさんだった。
「しゅんぺーちゃんに、今日はのぞみちゃんも来てくれたのね。いつもありがとう」
「いえ、こちらこそいつも騒がしくてすみません」
「やだ、しゅんぺーちゃん、かしこまっちゃってー」
いずれこの国を治めるためにもやはり地元は大事。
ここで裏切りにあい、基盤が揺らぐことになっては話にならない。
故に大人の方々には礼儀正しくしているのだ。
ふと、この店内が妙に静かなのが気になった。
そういえば……
「今日はのんのんは休みなんですか?」
「そうなのよ。働き手がいなくて困っちゃうわ」
おいおい、この前『のんのんに休みはないニャ!』的なこと言ってなかったか?
「……それにしてもしゅんぺーちゃん、もしかしてあの子に気があるの?」
俺は思案する。
心当たりがなさすぎる。
仕方なく訊いてみる。
「あの子って……」
「もちろん、のんのことよ」
のん……
まさかあの猫娘か?
全力で否定する。
「はあ⁈ なぜそうなるんです⁈ 俺がのんのんに気がある? ないない!」
そもそも、俺以上によくわからないことを口にしているヤツは扱いに困るのだ。
「あらあら必死になっちゃって、かわいいわね……あら、ごめんなさいね。今日はのぞみちゃんとデートだったわね。余計なことを言ってしまったわ」
「……はい……すみません……」
「いや『はい』ではない、のぞみ! そしてなぜ謝る!」
くっ……
これだからおばさんは恐ろしい。
その後、席に案内された俺たちはまず昼飯を食べた。
俺はいつも通りオムライス、のぞみは鉄板ナポリタンだった。
そして食後のミルクティーを注文し、本題に入る。
「それでのぞみ、相談というのはなんだ?」
「……あずさちゃんのことです」
「あずさに何かあったのか⁈」
俺はたまらず机に身を乗り出してしまう。
のぞみが俺に気圧されたように上体を少し後ろに引いた。
「……すまない。それで、あずさに何か?」
俺は冷静になろうと努める。
あずさのことになると、中学生の時のことが頭の中にリフレインして、我を忘れてしまうのだ。
「……ぜんぶ私のせいなんです」
「……どういうことだ?」
「話せば長くなりますけど、いいですか?」
「無論」
「とりあえず、これを見てください」
のぞみは鞄から取り出したメモ用紙のようなものを俺に差し出してきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます