#5

 2024年9月21日土曜日、スクエアタワー最上階にて


 週末。

 特にこれといってしなければいけないものもない。

 ひかりは受験勉強のため、土日はずっと塾にこもってしまうし、今日はあずさも買い物に出かけてしまった。

 という訳で話し相手もいない。

 暇だ

 くっそヒマ。




 時計を確認する。

 針は11時半を示している。

 もうすぐお昼時だな。

 どうせ暇だし、『フリーダム』にでも行ってのんのんに恩を売ってやることにしよう。

 そう思い立って着替え始めようとしたその時、スマホに着信があった。

 誰からだろう。

 確認すると、のぞみからだった。

 そういえば昨日も連絡してきていたんだった。

 返信するのを忘れていた。

 通話ボタンを押して電話に出る。


「俺だ」

「もしもし中原です。すみません急に」

「いや、こちらこそすまなかった。昨日も連絡くれていたみたいだったが無視してしまった」

「あ、いえいえ、とんでもないです。謝んないでくださいよ」

「……それで、何か用事か?」

「……はい。佐田さんに相談したいことが」


 相談?

 のぞみが俺に相談なんて、珍しいな。

 それどころか初めてではないか?

 まあとりあえず、いつもの言葉で様子を見てみよう。


「『佐田さん』ではない! 『兄者』と呼べ」

「……兄者に、相談したいことがあります」

「え?」


 こいつ今……『兄者』っつった?

 俺の聞き間違い?

 中原望海さんは俺の兄者ネタには付き合わないタイプの方のはずなのですが……。


「……お前、頭のねじ一本外れたのか?」

「私……変なこと言いました?」

「お前が俺のことを『兄者』と呼んだのは、これが初だったからなあ」

「……ごめんなさい。私、昨日からちょっと考えごとしてて」

「考えごと?」

「はい、そのことについて佐田さんに――」

「『兄者』だ」

「……兄者に相談したいんです。今、時間あります?」


 こいつはよっぽど気が動転しているみたいだ。

 妙に早口だし。

 普段そこそこ落ち着いている奴なだけに、心配になってくる。

 それにしても、あずさといいのぞみといい、親しい奴がいつもと違った行動をとると、心配になるものだな。


「ああ、ちょうど今日は暇でな。今から『フリーダム』に昼飯に行こうとしていたのだ。そこで話を聞こうではないか」

「……『フリーダム』ですね……分かりました。助かります。何時くらいに集合しましょう?」

「お前は今家を出ると、いつ頃到着できるのだ?」

「あ、今ちょうど東京スクエアにいるんですよ」

「そうか。ならば、30分後に店の前にて落ち合おうではないか」

「分かりました。では、また後で」

「おう」


 電話を切る。

 さて、着替えるか。






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