#3

 2024年9月20日金曜日、名京大学付属高校にて


 昼休み。


 昼食を手早く摂って、食堂を後にする。

 そして1年生の教室へと向かった。





 この前、あずさの様子が少し気になったのは、やはりひかりも同感だったらしい。


『あずさのこと……何か本人から聞いているか?』

『いいやなんにも』

『何かあったのだろうか?』

『アタシに聞かれても。でも、ふだんあんな顔しない子だから……』

『……ちょっと学校での様子も見なければな』

『うん。そうする』

『では、明日から昼休みに教室を覗くとするか』

『え? アンタが?』

『もちろんだ』

『でも……あずさはアタシの妹なんだから。アンタにまで迷惑かけられない』

『つまりあずさは俺にとっても妹だということだ。それでなくても俺はこの国の所有者となる者。奴について把握しておく義務がある。迷惑な訳あるか』

『……ありがと。それならよろしく』

『……ではこれより、”猿飛作戦”を実行に移す! 偵察と言えば忍び、忍びと言えば猿飛――』

『それはどうでもいいから』




 …………。

 こういう訳で、あずさの監視に来ているということだ。

 火曜日、水曜日、木曜日と様子を見てきたが、別にこれと言って変わった様子はなかったように見えた。

 毎日、のぞみと2人でおしゃべりしながら昼飯を食べているだけ――。

 ――ん?

 2人?

 前にはもっと、多くの友人に囲まれていたような気がするが……。




 ちらりと教室の中を覗いてみる。

 ……………。

 いつもの場所に姿がない。

 あいつ小説好きだから、図書館にでも行ったのだろうか。

 いや、しかし………。

 のぞみは教室の中にいた。

 4、5人で会話に興じている。


 ふと、のぞみが俺の方を見た。

 何となく気まずいので、目が合わないように逸らしたが気づかれてしまったみたいだ。

 のぞみがわざわざ挨拶しに来た。


「こんにちは、佐田さん」

「『兄者』と呼べ、のぞみ」

「ふは、またそれ言ってる」

「ええい、黙れ………して、のぞみ、あずさは何処いずこに?」

「……ああ、あずさちゃんなら帰っちゃいましたよ。頭痛いって」

「そうなのか?」

「はい、メール来てませんか?」

「来てないが……ひかりには連絡しているのかもしれないな。邪魔して悪かった。戻ってくれ」

「あ、はい。ありがとうございます。あずさちゃんに『お大事に』って伝えておいてほしいです」

「分かった。伝えておこう」


 …………。

 まあ、誰にでも体調が悪いことくらいあるよな。

 全く、そういう時は俺にも一言くらい連絡を入れてほしいものだ。

 ………急にいなくなると、心配になるから。




 教室に戻るとき、ひかりとすれ違った。


「あずさのトコ、行ってくれたの?」

「ああ」

「どうだった?」

「体調悪くて帰ったらしい」

「え? そうなの?」

「メール来てるんじゃないか?」


 ひかりはスマホを確認する。


「いや………来てないけど」

「……そうか」


 おいおい、姉上にくらいは連絡しとけよ………。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る