【答え合わせ】(レオside)

 月日が流れ、五月中旬。

 学兵廃止に伴い学科名も変わり、特科四年として新たに新学期を迎えた俺は、新しく班に入ってきた新入生二人の世話をしながら時雨しぐれ達と共に忙しい日々を過ごしていた。

 学兵として戦場で戦わなくて良くなったものの、やはりすぐには変えられず、今は調査学生として戦闘訓練は続いていた。

 勿論それに関して様々な声は上がったものの、上層部としてはとりあえずこのままでいくようである。……まあ以前よりはだいぶマシな任務ばかりになったので、命懸けな事は少なくなったのだが何とも言い難い話ではある。

 そんな新たな学園生活を送る中、俺はある方に呼ばれて、ウィークの駅構内にある喫茶店に来ていた。

 ミルクセーキをストローでかき混ぜながら待っていると、そこに現れたのはスターチスだった。


「久々だね。レオ」

「こちらこそ。その、わざわざすみません。こんな所で」

「いやいいさ。呼び出したのはこっちだしね」


 そう彼はいうと、正面の席に座り手にしていたアイスコーヒーを置く。

 辺りから賑やかな話し声や物音が聞こえる中、俺はストローから手を離すと、スターチスを見る。

 彼の黒い瞳は真っ直ぐと俺を見つめていて、しばらくその状態が続いたかと思うと、ようやっと口を開き話が始まった。


「来て早々悪いんだけど……単刀直入に言わせてもらうよ。お前、何かしてるよな」

「……」


 スターチスに言われ、俺は首を傾げる。だが彼は確信があるようで、真剣な表情で彼は言った。


「【幻想の魔術師】。それがお前の正体だろ」

「……ああ」


 なんだ。知っていたのか。

 そう言うとスターチスの顔が強張る。それこそ自分も思い出したのは最近ではあるのだが。

 俺は小さく笑みを浮かべると、スターチスが言う前にこちらから話し始めた。


「一番最初の戦いの時、俺は時雨と同じく学園のエースと呼ばれていた。……正確には能力ではなく魔術だったんだが、その力のお陰で、俺達は神衣化も蒼の城も必要なくヘイズと渡り合えた」

「それが、どうしてこうなったのさ」

「一つは時雨の発車券として俺の力を使った事。二つはヘイズが記憶を引き継いでいる事。そして、三つ。その結果ヘイズが有利になってしまった事」


 指を立て説明した後、俺はミルクセーキで喉を潤す。

 俺達の目的はあくまでも真燃しんもえを死なせない事。その事実だけを覆せば良かったのだが、ヘイズが非協力的なせいで大きく未来が変わってしまった。

 度々記憶を失う俺達と、全てを受け継ぐヘイズ。とてもじゃないが、勝てる要素が無かった。


「だからせめてやり直しが効くように、お前とレイは生き残るようにした。禁断のあの蒼い城を使ってまでも、何とかヘイズを抑えてきた」

「そう。……けど、それは同時に大きな代償もあった。次第にそれですらも耐えきれなくなった頃、同じく記憶保持の手伝いをしていた霧宮きりみやに限界が訪れていた」


 本当は一回で済むはずだったやり直しが、延々と続き良くなるどころか悪くなっていく。真燃を助けるはずが、仲間がどんどん死んでいく。

 もう何もかも限界が来ていた。

 そこまで話すとスターチスは息を吐き、「それで」と俺が言おうとした事を代わりに言った。


「お前は今まで隠し続けていたループに穴を開けた。俺に気付かせる為に。自分達でもう止められないから、外部的な力で無理やり終わらせようとした」

「そう。……そして、霧宮は己の能力を使い、ヘイズから無理やり証拠を奪った。かなり手こずったが、何とか出来て良かったな」


 そう話し、ミルクセーキの氷をグラスの中で転がす。スターチスは唖然としていたが、頭を抱えた後「なんて大掛かりな」と呟いた。


「けど、流石のヘイズもどこかで気付いていたんだろうな。己の限界に。繰り返す度に過去の記憶が重なっていく。つまり、どうしたって変わらないんだよ。あいつの未来も」


 限界が訪れた時雨の為だけの無限ループ。ぐるぐると回り続ける時計の針を止めるには、電池を外すか元から壊すしかなかった。

 ここで丁度正午になり、喫茶店に飾られていた鳩時計が音を立てると、俺はグラスの内を指でなぞりながらいった。


「馬鹿らしいと思うだろう。たかだか一人の願いを叶える為に、こんな事って」

「……」

「けどな。見逃せなかったんだよ。……だって、アイツは」


 俺の大事な後輩なのだから。


 そう言うと、スターチスは複雑な表情を浮かべ、小さく息を吐いた。

 ただ一人の幼馴染を思い、守る為に駆けて行った時雨の人生。それが、世間が生み出した勘違いによって一瞬で奪われてしまった。

 指を止めると、俺は窓の外にいる人々を見つめながら、ふと湧き上がった悪い感情を吐露した。


「そこら一帯を血祭りにしたって良かったんだぞ。あいつは」

「……お前」

「冗談だよ。そんな事時雨がするわけないだろ。だから、俺はあいつに従っただけさ」


 時雨の願い通り。ただ彼女を救う事だけを目指して。だがそれは同時に数多くの仲間の犠牲の元でもあったが。

 グラスから指を離しスターチスを見ると、俺は頭を下げた後、椅子から立ち上がる。

 会計用の札を抱えレジへ向かおうとすると、スターチスが止めて「最後に」と訊ねられる。


「お前が幼少期出会ったグレイシャは」

「……ああ。それは勿論。俺の幻影だよ」


 俺も竜頭りゅうずの力の持ち主だから。そう返し、俺はそのままスターチスを置いてその場を後にしたのだった。

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