【6-18】視聴会
話を聞いていると、
実際持病で入退院を繰り返していた彼にとって、無理なく動けるようになったのも、ヘイズが行った時計塔との契約のお陰らしい。
だが一方で罪悪感を感じているとも米遣は言う。
「今の君を助ける為に僕は前の世界から来た君を刺した。結果的にそれは間違っていたし、先生の悪い作戦に乗っかっているようなものだったから、ずっと謝りたかった」
「謝るって……気にするなよ。未来の俺だって気にしてないって。多分」
「でも……」
「いいんだよ。友達ってそう言うもんだろ。迷惑かけあうもんだし」
気にするなよと米遣に言うが、米遣はぽつりと「刺したのは大分問題だけどね」と冷静につっこんでくる。確かにそれはそうである。
とはいえ過ぎた話ではあるし、俺自身が気にしていない以上、気にされるあまり接しづらくなるというのも辛い。
大丈夫だってと励ますと、米遣は渋々だが小さく頷く。
「それよりもさ。一つ聞きたいんだけど、米遣としてはこれって世間に明かした方が良いと思うか?」
「え、僕として? うーん」
話題を変える為に、ファイルを軽く叩きながら訊ねる。
首を傾げ米遣は考え込むと、「そうだね」と言って、悩みながらも教えてくれた。
「僕としては、明かしても良いんじゃないかなって思う。ヘイズ先生もそう言って置き手紙してるんだし」
「そっか……」
「……もしかして、僕達に気を遣ってる?」
「……まあ」
米遣に言われ、素直に頷いてしまう。と、米遣はくすりと笑って「やっぱりレイくんは優しいね」と言った。
「でも大丈夫。レイくんがどんな選択をしても、僕は支持をするから」
そう米遣は言うと、立ち上がり横に座る。
俺は何も返せず、静かにファイルを摩り考えた後、小さく息を吐き「分かった」と言う。
「とりあえず、明日付き合ってくれないか。メモリーカードに残されたヘイズの言葉も知りたいし」
「うん。いいよ」
「ありがとう」
頼みを快く引き受けてくれた米遣に、俺は笑みを浮かべ礼を言うと、ファイルを透明のバックに戻す。
念の為に鍵付きのロッカーに入れた後、放送と運ばれてきた夕飯の食べる準備をした。
※※※
次の日の夜。夕飯を済ませた俺と米遣は、事前に連絡していた会長とユマ、そして記者である
本当は談話室か空き部屋を借りようと思ったのだが、内容が内容だけに使い辛く、連絡ついでにその事を会長に相談した結果、なんと院長の特別な許可が降り、会議室を使わせてもらえる事になった。
「すごいね。院長先生の許可貰えるなんて」
「だよな。どういうコネを使ったんだか」
「何、レオを通じて外から掛け合ってもらっただけだ」
「まさかのレオ先輩」
という事は会長ではなく、レオ先輩の力か……。
そう言うと会長は真顔で「レオに感謝しろよ」と言って、後頭部に軽く手刀を入れてくる。
何故手刀を入れてきたのか謎だが、会長の言う通り後で礼を言わなければ。
後頭部を摩りながらエレベーターに乗り込み、目的の階に辿り着くと、白衣を着た院長と話す
「霧嶋さん」
「……来たか。体調は大丈夫なのか」
「大丈夫です。それよりもどうしてここに?」
ユマが訊ねると、霧嶋理事長はキャスタル先生から聞いたと言う。
そういやヘイズと兄弟であった霧嶋理事長を呼ぶの忘れてたと、今になって思い出し、血の気を引きながら背後にいる会長を見れば、会長は呆れたように息を吐いて「こちらから呼んどいた」と小声で言われた。
流石は会長。先程の手刀は許そうと思う。
ホッとする俺に、会長は顔が硬いまま引き続き小声で囁いてくる。
「後々キャスタル理事長も来るようだが、その際にウィーク民間放送局局長の
「はーい……」
「……今になって生徒会長に推薦したのが不安になってきたな」
気のない返事に、本人の目の前で早くも不安を吐露してくる会長だったが、霧嶋理事長達が歩き出した事で俺の背を押す。
そんな会長に俺は「押さなくてもわかってますよと」目で訴えながら理事長達の後をついていった。
会議室に入ると、片手にあった透明バックを持って前に向かう。
そこには、事前にプロジェクターなどを準備する為に先に来ていたレオ先輩と
緒鉢は車椅子に座った状態で、隅でパソコンのキーボードを打っていたが、レオ先輩はとっくに退院しており制服姿である。代償で失った足もスターチスさんの言う通り戻ってきていて、歩くのも支障はなさそうだった。
やってきた俺に先輩が気付き歩み寄ってくると、手にしていた透明バックを見つつ言った。
「メモリーカードはそれか?」
「はい」
お願いしますと、バックから取り出したメモリーカードを渡せば、先輩は頷き緒鉢の元へ向かう。
大きなスクリーンにはデスクトップ画面が映されていたが、少ししてメモリーカードの中身らしき再生画面が出てくる。
後はキャスタル先生達を待つだけなのだが、改めてファイルの中を見ようとすると、傍に霧嶋理事長がやってくる。
「それが例のファイルか」
「ん、ああ……そうです。
「霧宮か。なるほどな。通りで研究所から出てこなかったわけだ」
納得するように理事長は頷くと、間を空けて「見ても?」と訊ねられる。それに対し俺は頷けば、ファイルを理事長に渡す。
理事長はファイルを開き軽く目を通すと、目を細め呟く。
「確かに、本物で間違いな。ただまさか何も手を加えていない文書がこうして残されているとは思わなかった」
「……もしかして、研究所の方は消されていたんですか」
「ああ。……ま、それは特に珍しい事ではないんだが」
珍しい事ではない。その言葉から闇の深さを感じた。
悪事は明らかにする事が当たり前。そんな考えが俺達にはあるが、それを分かっていて悪事を隠そうとする人々がいる。
特に権力を持った人々がそういった傾向を持っていると感じるのは、ニュースなどで報じられている様子を見ているからだろう。
実際俺達が任務で探っていた時も、その大半は真実が隠されいた。証拠が見つけられず、証明ができない事から結局曖昧な形で決着がつく事が多かった。
そんな世の中で誰にも捨てられる事なく、この真実は残されていた。それは奇跡であり、同時に彼らのどこかに善意が残っていたとも受け取れた。
霧嶋理事長は黙ったままそれを見ていたが、ふとあるページで手を止めると、眉を下げ「馬鹿が」と呟いた。
「やり直せる機会ならばいくつでもあっただろうに」
「……」
怒り混じりに、だがどこか寂しげに言った理事長に、俺は何も言わずに耳を傾けた。
受け取った後、俺も改めてこのファイルには目を通していた。そこで感じたのは収まる事のない憎悪と怒りと、一方で自分がしてきた事の後悔であった。
いずれも、事故や実験の後に書かれたものではあったが、ここに書かれていた心情は、あまりにも最後に見た彼とはかけ離れている。
(アイツもアイツなりに悩んでいたんだよな)
だからと言って許す気など更々ない。アイツがどんなに後悔し謝った所で、事故に関わって命を落としてきた人々が帰ってくる事はない。
あの夏笑顔で出掛けたユマが、両親を失い、心身共に傷付いて帰ってきて。……代わってやりたくても代われなかったあの痛みを、アイツは起こす前に一度でも想像出来なかったのだろうか。
何度も後悔するのならば、せめて止めようとは思わなかったのだろうか。
(今更何をした所で、俺はアイツの味方にもなれないし、感謝もできないさ)
そう心の中で精一杯言ってやると、ファイルとは別に取り出していたヘイズからの手紙を取り出す。
取っておく理由はなかったのだが、捨てる気にもならなかった。
それも霧嶋理事長に渡せば、理事長は驚いた後「いいのか」と言いつつも、ファイルを脇に挟み受け取った。
「俺には手が余りますから」
困ったように笑えば、理事長も眉を下げて笑む。
そこにキャスタル先生と松江さんがやってくると、理事長はファイルと手紙を一旦俺に返し席に着いた。
「待たせたね」
「いえ。……準備はよろしいですか?」
「ああ。大丈夫だよ」
始めようか。キャスタル先生の言葉に俺は頷く。そして近くで立っていたレオ先輩を見れば、先輩は緒鉢に指示を出して傍の椅子に座る。
画面が動き始め、入っていた動画の音声らしき雑音が聞こえてくると、俺もユマ達の居る後ろの席に向かい、椅子に腰掛ける。
その間に画面はどこかの研究室を映し出し、そこにヘイズが現れる。ヘイズは僅かに笑みを見せると、カメラに向かって淡々と語り始めたのだった。
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