【1-11】サクside

「九時か」


 時計の鐘が広いリビングに響き、俺は力を抜いて背もたれに寄りかかる。

 日中の戦闘の疲労もあり、ノートパソコンの蓋を閉じ欠伸をすると、机に置いていたマグカップを流し台に置いた。


「……疲れた」


 そう呟きながら浴室に向かうと、服を脱いでシャワーを浴びる。

 正直明日にしたい所だったが、朝が早いのもあり出来るならば何でも今日のうちに済ませたかった。


「……」


 目を閉じれば、鮮明に地面に倒れた人々の姿を思い出す。

 戦場なのだから、死人が出て当然だ。だが、それがもし学園の生徒だったら。それが自分の大事な人だったら。


「……はあ」


 我ながら何を。そう思いながら、頭から湯をかぶる。真っ白で眩しく見える浴室に目を細めながら素早く全身を洗い終えて、寝巻きを身につける。

 戦いなんて日常茶飯事だった俺にとって、最初は戦場で怖気つく生徒達がただの甘えに思っていた。それは今も変わらない。けれども、その一方でこの戦いに疑問も持っていた。


(一体、いつになったらこの戦いが終わるのやら)


 リビングに戻り再びコーヒーを飲もうとした時、ちらりと写真立てが目に入る。

 家を出る際に一緒に撮った写真。家のある地域はまだ技術が発達しておらず、写真もモノクロだった。


「姉さん」


 そう呟き、写真に触れる。俺とよく似た双子の姉の姿を見つめた後、すぐにその写真から手を離した。


『ピコン』

「ん、なんだメールか」


 携帯から音が鳴る。水の入った電動のポットにスイッチを入れてから携帯を手にする。相手はレオだった。


 「……」


 そこに書かれていたのは、一言。


「ヨム・ラウントリーは、スパイ……か」


 信じたくはなかったが、レオが言うならそうなのだろう。

 レオに返事した後、携帯をポケットにしまいキッチンに戻る。

 時雨しぐれ日向ひなたには申し訳ないが、生徒会長として放ってはおけない。しかし、かといって何も聞かずにヨムを追い出すのも酷だろう。


(もある。ここは一つ。話を聞いてみるか)


 携帯を部屋着のパンツのポケットに入れると、新たなマグカップにコーヒーを注いだ。


 

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