第6話

「この程度ですか…生温くて逝けもしませんよ、お客様。あははっ!」

「この糞餓鬼‼︎ だったらお望み通りぶっ壊してやるよ‼︎」

猫に挑発された客は簡単に激怒し、店側が用意した殺害補助具の中から鋸を取り…猫の腕をじっくりと削り、切断する。

しかし猫は悲鳴を上げることはなく、けらけらと馬鹿にするように笑い、なおも余裕に言葉を紡ぐ。

「ありきたりですねえ…わたしを何だと思っているのです。色売り屋の猫ですよ。もう慣れてしまいました」

「畜生が‼︎ 泣けよ‼︎ さっさと殺されろ‼︎」

鋸は腹に当てられ、ざりり、ごりりと皮膚と肉を引き裂き、そして開く。体内の腥さが部屋中にぶわっと広がる。

それでも猫は笑い…やがて呆れ、深くため息をつく。

「あの…独りよがりもいい加減にしてください。逝けないのですが…」

「黙れ‼︎ 黙って死ね‼︎」

「ああ、はい…」

ずるずると中身を引きずり出される…猫は心底退屈そうに天井を見上げ、残された片手で偶に頭を掻いたりする。

客は癇癪を起こしたように奇声を上げる。

「糞が‼︎ 糞畜生‼︎ 泣けよ⁉︎ 手前てめぇ、つまらねえんだよ‼︎」

「貴方が黙れと申したのでしょう…」

「このど畜生‼︎ 糞餓鬼があ‼︎」

客は再度鋸を握ると、猫の喉に押し当て、皮膚と肉と血管を削る。ざり、じゃり、ぐじゅり、ごぎり、ごりり…。

猫は目を見開いた…きらりと無邪気に緑の瞳を輝かせ、にたあといびつな笑みを浮かべた。

「噫、なんて鈍間だ。今更その発想に至るとは、とんだ愚か者、遅漏ですねえ! あはっ、ゔ、げぶっ‼︎」

喉が引き裂かれた猫は笑いながら血反吐を噴き出した。

客の顔面が吐き散らされた血液の飛沫で真っ赤に染まる…鮮血の鉄錆と反吐の饐えたにおいの混じった異臭の液体を浴び、客は呼吸を荒らげ、勝ち誇った顔をする。

「ざ、ざまあみやがれ‼︎ まだ殺すもんか…こ、このままじっくり、ゆっくり首を切って…手前ぇがまた生き返ったら、今度は爪先から電動工具で挽肉にしてやるからな⁉︎」

「はあ?」

猫は顔を歪め、呆れ果てて呟く。

「凡人の発想しか出来ねえのかよ、遅漏…」

ごりゅ、と喉元の命を繋ぐ部分が引き裂かれ、猫は噴水のように鮮血を噴いて白目を剥いた。

猫…柳は死んだ。

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