第13話   心が痛くて…。手首が痛くて…。さみしくて…。「私、生きるしかないんです」後日、別の女性が、相談にやってきた。

 苦しくなって、どうにもならなくなるまで追い詰められた、弱い立場の女性だったなら…?

 リスカ。

 「私…。持っていた、裁縫や裁断用のカッターナイフで、手首を切っちゃいました。苦しかった」

 やっぱり、か…。

 睡眠薬を口に含むことは、しなかったそうだ。

 「睡眠薬を買う金が、なかったから」

 それも、使わなかった理由の、1つ。

 本音は…?

 本音は、家族の存在だったのかな?

 どうしたって、ヤングケアラーの子たちに、重なって見えていく。

 「誰かを思えば思うほど、…私には、それ飲む勇気が出なかった」

 リスカなんか、やりたくはなかったという。

 でも、もしも、自分が見ていなかっただけで、家族の手首にその傷があったのだとしたら…。

 「私にも、それをする権利があるんじゃないのかと、思っちゃった」

 完全に、疲れていただろう。

 「甘え、なのかな?」

 いくつもの思いが、交差していた。

 リスカも、1度やってしまうと、止まらなかった。涙も、止まらなかった。

 「こういうのを、依存っていうのかな?」

 泣いた。

 「皆が、やっているんだ、弱い立場を乗り越えるためには、こうするしかないのよ。仕方が、ないのよ」

 身勝手な合理化で、また、泣いた。

 「これも、甘えなのかな…?」

 心が痛くて…。

 手首が痛くて…。

 さみしくて…。

 何度も、泣いちゃったという。

 「私が、いけなかったんだ。SNSで、気軽に他人と関係をもとうだなんて、思っちゃったから…」

 これも、コロナ禍の呪いなんだろうか?

 友達大好き世代のつらさ、なんだろうか?

 医師に頼るしか、なかった。心の傷は、まわりからは、わからなかった。けれど、リスカの傷は、ごまかせない…。

 「複雑性のトラウマ、PTSDの発祥は免れないでしょう」

 高校生活は、壊れた。

 精神科への入退院を、繰り返すことになった。

 「でも、私は、生きるしかないんです」

 ナエには、ありがとうございますと、頭を下げた。

 「私、生きていきます」

 後日、別の女性が、相談にきた。

 既婚女性。

 「はじめまして。ナエと、いいます」

 

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